本研究課題は、精神病者監護法の時代に形成された「精神病者」に対する処遇形態が、精神障害のある人を取り巻く現代の諸問題の源流となっているという問題意識によって設定された。それゆえ本研究では、精神病者監護法(1900)、精神病院法(1919)、精神衛生法(1950)の精神障害者政策を分析対象とし、(a)戦前から戦後の連続・非連続性、および(b)精神障害者に対する受容と排除の構造という2つの視点から、(1)精神障害者関連法に見る社会政策的意図、(2)精神保健福祉専門職の支援理論の発達過程、(3)精神障害者を取り巻く市民の意識の変化を明らかにすることを目的とし、①精神障害者関連法案審議過程にみる法改廃過程分析、②精神障害者関連法改正と社会的事件との因果関係分析、③衛生政策にみる衛生概念の変化、④精神保健福祉専門職の支援理念形成過程、⑤市民精神保健福祉活動の歴史的展開および意識の変化分析の5つの作業を行うものである。 最終年度である2018年度は、4年間の研究全体の総括をするともに、必要な史資料の追加収集とその整理・分析および成果のとりまとめに費やした。また関連する政策理論研究会、実践理論研究会、愛知社会福祉史研究会への継続参加、および関連学会での研究報告を行った。 研究テーマに関する史資料を収集・整理し、政治経済的状況・時代文化的背景・精神病者観・権力構造の枠において分析したところ、精神保健福祉領域において「統制」と「保護」の両義的な要素が、法の改廃過程にも法の運用過程にも、時に人権侵害・剥奪の認識にもいずれかの価値が強調されながらくり返し立ち現れていたことが確認できた(①②③)。そのようなマクロな動向に影響を受けるのが、精神障がいのある人びとの生活および彼らを取り巻く市民の意識である。本研究では特に自殺予防およびひきこもり支援の場面における支援理念とその歴史的展開を追った(④⑤)。
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