研究課題/領域番号 |
15K03939
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研究機関 | 高知県立大学 |
研究代表者 |
田中 きよむ 高知県立大学, 社会福祉学部, 教授 (00253328)
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研究分担者 |
水谷 利亮 下関市立大学, 経済学部, 教授 (00310897)
玉里 恵美子 高知大学, 教育研究部総合科学系地域協働教育学部門, 教授 (40268165)
霜田 博史 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (50437703)
山村 靖彦 高知県立大学, 社会福祉学部, 准教授 (80455089)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小さな拠点 / 共生型地域づくり / 地方創生 / 地方消滅論 / 限界集落 / 集落活動センター / あったかふれあいセンター / 高知型福祉 |
研究実績の概要 |
「『小さな拠点』を軸とする共生型地域づくり―その形成要因の分析と持続モデルの構築―」をテーマとする共同研究に取り組んだ。地方の各市町村・各地域は、少子・高齢化、過疎化が進み、住民の生活と地域の持続可能性が問われている。しかし、「地方創生」の名の下に、特別交付金に誘導される形で、合計特殊出生率を人口維持水準に引き上げることや、人口の社会減を止める目標に向けての「対策」を打ち出す実現根拠の乏しい「まち・ひと・しごと戦略」が各自治体施策として示されている。 われわれは、人口減少が進むなかでも住民が暮らしの質を豊かにする方向で、内発的に地域と生活の持続可能性を図る道を示した。とくに、住民にとって身近な「小さな拠点」(高知独自の「集落活動センター」や「あったかふれあいセンター」等)を軸としながら、住民主体の地域活動や地域づくりが展開される可能性と要因を明らかにした。 住民が主体的に参加できる仕組みがあることが、住民にとって納得、満足できる地域づくりにつながる。背伸びや夢見物語の豊かさではなく等身大の豊かさを享受する道、経済的・量的な尺度だけでは測れず、生きる・生活することの質的豊かさを自然と人の好循環の中で享受する道が今後の地域づくりの方向であることを示した。そして、都会が主役の時代から地方の田舎が主役の時代へ、地域づくりのモデル・チェンジの必要性を提起した。 地方の地域性に合った暮らしを成り立たせる要因を明らかにするためには、総合的なアプローチが必要であり、地域福祉学、地域社会学、地方財政論、地方自治論の学際的アプローチにより、住民にとって「住んで良かった」、地域外の人々からみて「住んでみたい」と実感できる地域づくりをどのように展開しうるのか、その解明に向けた様々な地域の事例分析とならんで、各アプローチからの理論的考察をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の共同研究の成果を出版化し、田中きよむ編著『「小さな拠点」を軸とする共生型地域づくり―地方消滅論を超えて―』(晃洋書房、2018年3月刊行)として集約した。第1に、四国や高知県の地域の孤立化の状況をふまえ、世帯・個人の介護をめぐる孤立化の現状と特徴、課題と方向を明らかにした。第2に、高知型の「小さな拠点」を軸とする住民主体の地域づくりの形成要因、活動内容、今後の課題と方向を明らかにした。第3に、中四国に視野を広げつつ、住民の主体性を尊重した自治型総合的地域づくりの特徴を明らかにした。第4に、東日本震災地域を事例として、共生型拠点を軸とする地域づくりの形成過程と特徴を明らかにした。それらを通じて、住民の主体性、学生との交流、共生型拠点などを生かしながら、住民自身の生活の質の豊かさから地域づくりを進める方向を示した。 理論的には、第1に、地域福祉学の立場から、住民の生活困窮問題や生きづらさなどの「脆弱性」を重視しつつ、それに対する法制度的な福祉ではない住民の主体性に基づく福祉の重要性を捉え、意図的な取り組みによる「機能縁」を生み出すうえで、ソフト面から「小さな拠点」が活動の「よりどころ」や「しくみ」として活かされることを明らかにしている。第2に、地域社会学の立場から、都市住民からも「選ばれる」農村となるためには、「ここにしかない」魅力を示す「地域のコンセプト」を明確にする必要があり、そのためには、リーダーの存在、取り組みの拠点、住民の主体性、地域資源の価値、住民の組織化がポイントになることを明らかにした。第3に、地方財政論、地方自治論の立場から、協議機能と実行機能をもつ「地域運営組織」が「小さな拠点」の運営主体として重要であり、それは、地域の「意思決定と実行のしくみ」を具現化しながら、住民を巻き込み行政施策に影響を与えつつ、自治を組み直す力となりうることが明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後、海外(台湾、韓国)や国内・県内(佐川町や仁淀川町)の追加的な地域・拠点調査をおこない、 ①高齢・過疎化が進む地域において、地域支援を中心とする仕組みとして、住民参加型の高齢者・障害者・児童の垣根を越えた共生型交流拠点や多機能型活動拠点を軸とする地域づくりの形成要因と可能性、課題と方向について、分析・考察を一層深める。 ②高齢者などの要援護者の地域生活支援や介護予防において、住民参加型の生活支援、見守り、通いの場づくり、訪問活動などの個別支援を中心とする活動の内容、運営方法、成果や変化、今後の課題と方向について、分析・考察を一層深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27~29年度の研究期間において、「小さな拠点」を軸とする地域づくりの形成要因の分析をふまえ、学際的に捉えた「小さな拠点」を軸とする地域づくりの持続モデルを構築し、高齢・過疎化の制約下でも自立しうる地域づくりの諸条件を提示することを目的としてきた。それは、ほぼ達成しつつあるが、さらに1年間、研究期間を延長することにより、追加的に地域調査を重ね、より精緻な理論構築を図ろうとした。 4.で記述したように、追加的な地域・拠点調査の旅費や、成果発表に向けた学会・研究会参加費用を中心に使用予定である。
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