研究課題/領域番号 |
15K03944
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
松本 真由美 日本医療大学, 保健医療学部, 准教授 (20738984)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地方精神保健福祉審議会 / 当事者委員 / 政策決定過程 / 参加 / 全国調査 / 都道府県・政令指定都市 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は以下の通りである。 まず、本研究は、精神保健福祉に関わる計画の策定や施策の審議の場である地方精神保健福祉審議会(以下、審議会)における当事者委員の参加の現況と、当事者委員に対する合理的配慮や当事者委員の参加能力の実際を明らかにすることを目的に、3年計画で組まれたものである。 研究の初年度にあたる平成27年度は、(1)質問紙による全国調査を実施:審議会における当事者委員の参加状況、当事者委員への期待や役割等を調査した。3年前の調査と比較し、審議会の開催率が大幅に減少し、精神障害に特化した会議開催から、多障害合同の会議へ置き換わる傾向がみられた。開催のあった40都道府県・政令指定都市のうち、18件で当事者委員の参加があった。参加率は前回の30%強に比して40%強と上昇したが、開催率の減少に伴うもので、件数は18件とかわらなかった。 (2)新規に当事者委員の参加があった都道府県・政令指定都市における聞き取り調査の実施:以前の調査では1県、2市が当事者委員参加の予定であったが、実現せず、新たに新規参加があった熊本市、札幌市、名古屋市を訪ねた。行政担当者は当事者委員の参加を前向きに捉え、当事者の立場からの発言を期待していた。当事者委員は参加回数が1回の場合は、審議会で発言するに至らないことはあったが、複数回参加を経験した委員は積極的に発言し、当事者の立場からの具体的な提言が示された。 これら質問紙調査、聞き取り調査から、当事者委員は専門職・行政職とは異なる視点からの情報提供や意見表明を行っていることが示唆された。また、行政担当者は当事者委員の参加を肯定的に評価しており、当事者委員参加の意義がうかがえる。しかし、当事者委員の参加がない都道府県・政令指定都市は、今後も参加予定がなく、当事者委員参加の必要性を広く伝え、変革を促すことが課題と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は概ね順調に進展している。 (1)質問紙調査結果:全国67の都道府県・政令指定都市に依頼し、64件、95.5%の回答、回収率であった。13の選択肢のある質問、4の自由記述の質問に対し、解答が得られ、都道府県・政令指定都市の審議会に関する現況が把握でき、現在も分析を進めている。 (2)聞き取り調査は3市に依頼した。本研究開始前に実施した聞き取り調査とあわせ、8市の8人の行政担当者、13人の当事者委員の調査を実施でき、当事者委員の役割が十分に把握できた。これらから当事者委員参加都道府県・政令指定都市の特徴はかなり明らかにできたと思われる。 その一方、当事者委員の参加のない地域の調査は断られる場合があり、まだ、着手していない。調査の重要性を伝え、協力を仰ぎ、早急に調査を実施する予定である。 (3)カリフォルニア州の精神保健計画審議会の調査は、訪問時期を調整した結果、年度が改まった4月に実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に進展しているものの、2点修正を必要としている。 1点は当事者委員の参加がない都道府県・政令指定都市での聞き取り調査を平成27年度に着手する予定が、実現できなかったことから、平成28年度に取り組む重点事項としたい。着手できなかった理由は聞き取り調査への依頼に対し、都道府県・政令市指定都市の了解が得られなかったことによる。対象を拡大し、再度対象地の選定を行う。 2点目はカリフォルニア州の精神保健計画審議会訪問が4月になったために、調査結果の分析をこれから行なう。カリフォルニア州は審議会委員の過半数が当事者委員と家族委員が占める。ADA施行以後、障害のある人々の権利が重視されるアメリカにおいては、当事者と共に政策の議論がなされている可能性が考えられる。当事者委員参加の先進地の特徴を明らかにすることは、本研究の目的に合致するものであり、重要度が高いと判断する。 精神保健福祉領域の政策決定過程に精神疾患の経験のある当事者の参加は当然のことと考えられ、障害者権利条約に批准したわが国においては、当事者委員の参加が障害者の権利の実現となることから、参加が進むと予想された。しかし、参加が実現しない地域があり、各地域には各地域の事情があると考えられる。それらを明らかにし、先進的な地域と比較し、今後の当事者委員参加の可能性について検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定より残額が発生した理由は、物品費として2台のパソコンを申請した内、平成27年度は1台のみ購入したこと、旅費としては精神保健福祉審議会に当事者委員の参加がない地域への訪問を予定したが次年度以降に持ち越しとなり、あわせて人件費・謝金の発生も少なくなったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は追加でパソコンを購入する予定である。また、当事者委員の参加がない複数の地域に出向き調査を行う予定である。これらにより前年度の残金は十分に活用できる見通しがある。
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