研究課題/領域番号 |
15K03944
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
松本 真由美 日本医療大学, 保健医療学部, 准教授 (20738984)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地方精神保健福祉審議会 / 当事者委員 / 政策決定過程 / 参画 / 都道府県・政令指定都市 / カリフォルニア精神保健計画審議会 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は以下の通りである。 平成27年度に実施した質問紙調査をもとに、(1)地方精神保健福祉審議会(以下、審議会)に当事者委員が参画する都道府県・政令指定都市(以下、都道府県等)の議事録分析を実施した。(2)審議会の開催があり当事者委員の参画がない都道府県等と、審議会の設置・開催がない都道府県等に聞き取り調査を実施した。(3)当事者委員が複数参画するカリフォルニア精神保健計画審議会を見学し、関係者への聞き取り調査を実施した。 (1)審議会の議事録によれば、当事者委員の発言数は概して多く、当事者の視点を加味、当事者の立場から審議事項を分析・発言し、当事者が受ける可能性のある不利益を点検する等の役割をしていた。また、当事者委員の参画によって多様な審議が可能になり、活発に発言する当事者委員の存在が審議会全体を活気づける傾向がみられた。 (2)当事者委員の参画がない都道府県等はこれまで参画を検討する機会がなく、審議会委員枠が専門職団体の充て職で固定しており、当事者委員参画の理由がみあたらず、適する人材や希望する当事者がいないこともあり、参画が進んでいないことがわかった。 (3)カリフォルニアはわが国の審議会に比べ、責任や権限が重く、開催回数や日数が長く、会議日程中に講演等も組まれ、審議会自体の位置づけが異なる。また、当事者委員は他の委員と対等、かつ、審議会を担うパートナーと考えられ、当事者委員が所属する団体は活発に活動し、カリフォルニアの精神保健システムの計画や内容、予算配分を評価し、さまざまな機会に意見表明を行なっており、日常の活動自体が行政機関の制度・政策の評価につながっていた。したがって、カリフォルニア審議会への当事者委員の参画は当然の帰結であり、当事者云々を越え、一委員として役割を果たすことを期待される存在であり、わが国の当事者委員の参画において多くの示唆が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)地方精神保健福祉審議会の開催があり、当事者委員の参画がない5件、同審議会の設置がない2件、同審議会の設置はあるが開催がない1件の都道府県等を訪ね、行政担当者に聞き取り調査を実施した。 (2)2016年4月にカリフォルニアを訪ね、4半期に1度開催されるカリフォルニア精神保健計画審議会を見学し、1名の行政担当者、8名の当事者委員・元当事者委員に聞き取り調査を実施した。 (3)しかし、当初の研究計画からテーマが変化しつつある。もともとの研究計画は当事者委員の参画に行政機関が積極的な群、消極的な群、当事者委員新規参画群の3群に分け、特徴を抽出し、行政機関に求められる合理的配慮と当事者委員に求められる参画能力を検討する計画であった。けれども、2006年の精神保健福祉法改正以後、審議会を開催しない都道府県等が増え、審議会の位置づけが変化し、当事者委員の参画も審議会に限定するのか、審議会に代わる会議への参画も含むのか、これまで視野になかった点について考慮する必要が生じた。そこで、研究計画を修正し、①審議会の開催があり、当事者委員の参画がある群、②審議会の開催があり、当事者委員の参画がない群、③審議会の設置または開催のない群に分け、当事者委員参画の事情を把握することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況から、今後の研究の遂行上、以下の修正を必要としている。(1)これまでのデータを再整理し、審議会の開催があり、当事者委員の参画がある群において当事者委員参画の経緯と当事者委員に対する行政機関の評価を明確に示す。 (2)追加の聞き取り調査を実施し、審議会の開催があり、当事者委員の参画がない群が当事者委員参画に至らない事情を把握する。 (3)上記同様、追加の聞き取り調査を実施し、審議会の設置または開催がない場合、設置・開催されない理由と、代わる会議の存在の有無、代わる会議への当事者委員参画の可能性について検討する。 これらを通し、行政機関の当事者委員に対する評価を示し、今後の審議会およびそれに代わる会議への当事者委員の参画拡大と当事者の声を審議会に反映させる可能性について明らかにする。 (4)カリフォルニア精神保健計画審議会の現況とわが国の当事者委員参画のあり方を比較し、当事者委員の参画拡大と、審議会における役割について検討する。 (5)これまで得た情報を学会の自主プログラムで公開し、審議会への当事者委員の参画と当事者委員の声を得ることの意義について幅広い層に認識してもらう機会を持つ予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定より残額が多く発生した理由は前年度からの繰越金があったこと、予定していた聞き取り調査が実施できなかったエリアがあり、旅費の支出が過少であったこと、また、それらと連動して音声データの文字化に要する支出も少なかったことによる。さらに、学会出張と抱き合せ、周辺都道府県等の聞き取り調査を実施したため、少ない経費でデータを取得できたことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
これまで聞き取り調査を実施していない東北エリア、関西エリア、四国・九州エリアの都道府県等に出向き、使用する予定である。これらのデータが得られれば、審議会に当事者委員の参画がない43都道府県等のすべてのエリアから1箇所以上のデータを取得でき、また、全体の過半数の都道府県等から情報が得られ、さまざまな地域事情を考慮した考察を行なうことができる。
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