研究課題/領域番号 |
15K03946
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研究機関 | 東北福祉大学 |
研究代表者 |
赤塚 俊治 東北福祉大学, 総合福祉学部, 教授 (40285656)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カンボジア / 社会福祉 / 高齢者支援 / 専門職育成・養成 / 貧困 / 所得格差 / 地域格差 / 人間安全保障 |
研究実績の概要 |
(1)経済成長が著しく成長している一方で、貧富の格差や地域格差が拡大している。とくに1980年代以降、カンボジア経済は、市場経済化したことで農村部に暮らす人々に占める貧困層の割合は高い状況にある。その結果、農業を諦め出稼ぎ労働者として、首都プノンペン(Phnom Penh)特別市(以下、プノンペンと略す)など都市部へ移動している。まさに貧困が生み出した社会現象である。プノンペンなど都市部とは対照的に農村部を中心として、全人口の30%以上の人々が貧困層に該当している。こうした社会背景にあって伴って、貧困状態にある都市部の高齢者や農村部の高齢者の生活状態は、厳しい生活を余儀なくされている。さらにはケアを必要としている高齢者は増加傾向にあることを統計資料や調査研究結果から分析した。
(2)2016年8月22日から24日までスバイリエン州(Svay Rieng Province)の農村部に居住する4村で調査票を使用して、生活実態に関する実態調査を実施した。この4村は、貧困層世帯が多い地域である。地理的にはベトナム社会主義共和国の国境に接する位置にある。なお、スバイリエン州の4村の調査研究結果については、日本社会福祉学会第64回秋季大会(京都市:佛教大学)で口頭発表として、一部の項目を抽出して得られた分析データを基にしながら、社会福祉専門職の人材育成・養成の重要性ついて示唆した。
(3)介護問題も含めた高齢者への支援は、家族の役割であり、身内がいない場合はお寺が保護を行っている。高齢者は専門的介護支援を受けることは皆無であり、生活支援は、カンボジア赤十字社(Cambodian Red Cross)によって生活物資の提供はあっても専門的な生活支援はない。今後は法整備も含めて具体的な高齢者福祉対策が求められることが研究成果から明確化することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.計画していた調査研究が実施できた。(厳しい地理的環境下であったが、事前調査を取り入れながら、予定通りに調査研究を実施できたことは、最大の研究成果でもあった。) 2.関係省庁との関係性を獲得することができた。 3.国際ボランティア団体との交流を図ることができた。 4.プノンペン事務所のJICAスタッフ及びアジア経済研究所の研究員と意見交換をすること ができたことで、研究活動を実施する上でとても参考になった。
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今後の研究の推進方策 |
カンボジア政府は国家戦略として社会福祉分野の開発に取り組み、高齢者福祉はもとより社会福祉分野の充実化を図る政策が求められる。単なる一過性の国家戦略ではなく、社会構造の変容などを鑑み専門職の人材育成・養成を具現化し、社会福祉分野の展望を拓いていく長期的国家計画が重要となる。同時に関係省庁は国際機関からの支援を受けながら、社会福祉政策を推進することが不可欠である。今後、高齢者人口(老年人口)の増加率は、確実に伸びることが予想される。その際に大きな課題になるのは、介護も含めたケア対策である。調査結果からも調査対象者のほとんどが相談専門員や介護専門員は必要であると示唆された。カンボジアでは社会保険制度に関する法律(2002)や国家社会保険基金(2007)は制定されたが、制度として高齢者福祉に対する基盤整備は進んではいない。それゆえに高齢者を対象とする専門的支援を包括的に展開するためには、国家施策(政策)を見直し、高齢者の衣食住も含めた生活環境の整備、専門職を養成する人材育成の整備、社会福祉分野に関する社会資源の確立などが重要となってくる。そのためにも国家施策(政策)として、社会福祉制度の確立や民法の法整備および関連機関との融合的システムを構築するための対策が求められる。現在のカンボジア政府の現状を踏まえて、国際支援や専門集団から国際協力を得ながら専門知識や専門技術を体系的に習得するための専門機関(学校)などを構築することが不可欠である。さらには高齢者を取り巻く生活環境に対して、多面的に調査研究を実施し問題と課題を把握し、高齢者福祉の向上はもとより国民生活の生活環境を向上させるために社会福祉に関する法律整備や社会福祉施策を展開する国家プロジェクトの創設を図ることである。本研究は、その一助になれるように推進する。なお、最終年度である2019年度はプノンペンで「高齢者福祉セミナー」を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年2月から3月に渡航した出張費代は、2017年度の使用額内で支払うことにしたことが理由です。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は最終年度である。過去の調査研究成果を踏まえて、関係省庁のご協力やご支援を受けながら、プノンペン市内で「高齢者福祉セミナー」を開催するための費用と調査研究活動に活用する計画である。
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