研究課題/領域番号 |
15K03952
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
佐藤 陽 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (70364859)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボランティア育成講座 / 要援護高齢者 / 学び合い / 支え合い / 多世代間交流 / 福祉教育 / 地域福祉 |
研究実績の概要 |
本年度は、講座試案の妥当性を比較検証するためB町の協力を得て、講座を実施した。その結果、講座受講の要援護高齢者の割合は16%、要援護高齢者の33%が社会活動につながり、ほぼ昨年度同等の割合であった。活動につながった要援護高齢者は虚弱あるいは要支援1程度であり、昨年度の各団体アンケートで専門職等による想定とおおむね合致した。 2町での実証から、要援護高齢者を主体に社会参加につなぐ講座の視座として以下3点の必要性が確認された。①講座の主担当者が準備から運営の過程で支え合いの姿勢を習得する②要援護高齢者本人に適した社会参加の機会を調整し促進する存在を必要とする③座学だけでなく受講者同士の話し合いと体験学習を活用する。特に、②で必要とされる担い手は、以下の4点を視点におく必要性が示唆された。a)講座会場までの送迎方法の確保b)本人の思いや希望を事前に聴き、つなげられそうな社会参加の機会を調整して体験学習に取り入れる工夫c)受講者同士が互いを尊重し、お互い様の関係づくりが基本になることを伝えるd)講座後に受講者同士が交流する場を設ける。また、この担い手に関し、昨年度のアンケート結果を踏まえ、社協、地域包括支援センターの計7名から聴き取りを実施した。その結果、いずれも公的サービス等の個別支援だけでなく、ニーズに応じて地域支援と連動させ、地域福祉の観点から実務に取り組んでいることが分かった。 また、講座後の社会参加の機会として、昨年度同様、高齢者が子どもとの関わりを希望される傾向があり、本年度は、将棋を通じて学童保育の子ども達との交流活動が創出された。高齢者が、次世代を担う子どもとその保護者や地域の人々と、担い手をキーパーソンとして、多様な人間関係の形成を図る多世代間交流の機会をつくることから、要援護高齢者が主体となる地域で相互に学び合い・支え合う仕組みを構築する方向性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究仮説の実証を踏まえ、「埼玉県福祉でまちづくり研究会(以下「研究会」)」で更なる実践事例の検証と本研究に向けた分析を実施した。そして、研究会に参加するB町社協職員を通じて、自治体及び「協議会」の了解を得て、講座プログラム展開の妥当性を比較検証することが出来た。この研究実績の概要に記した学び合いの方法は、日本福祉教育・ボランティア学習学会の課題別研究「シニア世代と共にコミュニティを拓く」による検証とともに深化させた。第22回学会大会(2016)において、高齢者が相互に支え合う講座の展開方法として、シニアボランティアの育成を視点に検証した。そして、要援護高齢者を主体とする社会参加の手法として、この講座の枠組み仮説が十文字学園女子大学紀要47(2016)で原著論文として掲載された。 また、本研究の中間報告会を研究会で実施した(地域包括支援センター、社協、行政、施設、ボランティア、学生、研究者 参加者合計39名)。筆者の枠組みに基づく、A町、B町の実証内容と成果について、2町の主担当者と受講後に活動をはじめた高齢者が報告した。そして、参加者との質疑応答により成果を吟味した。それを踏まえ、高齢者福祉と地域福祉に見識ある研究者から、体験により実際を見聞し、高齢者同士の仲間づくりを行ない、実際のフィールドにつなぐところまでデザインする講座モデルとの客観的評価を得た。参加者からは、要援護高齢者の社会参加を意識して高齢者の主体性を尊重する必要性、高齢者の社会参加につながる講座の展開方法について見識を深められた、との感想があった。 こうした検証の積み上げにより、本研究の要援護高齢者が主体となる地域で相互に学び合う手法に関する構造化が進み、研究はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実証と先行研究に基づき、おおむね構造化された学び合いを踏まえ、平成29年度は、本研究の最終年度として、支え合いにつなぐための仕組みの構造化に焦点をあてる。そのため、今日の厚労省による「我が事・丸ごと」の地域づくりに共通する、筆者の地域福祉施策への関与による実証研究と、地域を基盤とする福祉教育推進プラットフォーム研究の知見から検証する。また、多様な人間関係の形成を図る多世代間交流の機会を視野に、新たな支え合う仕組みに向けた実践や、地域包括ケアシステムの先駆的実践からの検証を試みる。そして、学び合いと支え合う仕組みをつなぐ役割について、本年度のインタビューから明らかになった、要援護高齢者の社会参加を調整し促進する担い手の役割の精緻化を図る。こうした検討により、要援護高齢者が主体となる地域で相互に学び合い・支え合う仕組みを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末まで、中間報告会やインタビューを行ったため、予定していた報告書及びテープ起こしに関する支出を行うことが出来ず、次年度使用額が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の報告書を製本し、前年度に行った報告会及びインタビューの書き起こしに支出する。
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