本研究の目的は、「高齢者が地域で暮らしていくこと」の実現を阻む要因、つまり福祉ニーズ・生活困難を抽出して整理し、その全体像の解明を行うことであった。 平成27年度は、福祉ニーズ概念の先行文献を検討し、政策論的な文脈のものと援助論的な文脈のものがみられること、福祉ニーズ発生過程に言及したものがあること、福祉ニーズを生活に必要なものとして純粋にとらえる立場と資源供給側が対応可能なものに限定してとらえる立場があることなどを主にまとめた。 平成28年度は、引き続き福祉ニーズ概念の検討を進め、政治的に決められ変更される面があるという流動的とする立場、普遍的なものとする立場では、例えば「健康」と「自律」が大切でありこれらを実現するものとして食料と水、住宅、適切なヘルスケア、重要な親密関係、経済的保障など、いくつかのカテゴリーを提示するものがみられた。しかし、カテゴリー内の具体的な項目を包括的に列挙していくことには限界があるため、結果的には部分的なものにとどまってしまい、高齢者の生活全体をとらえるのは容易ではないことが考えられた。 社会福祉研究としての福祉ニーズ・生活困難の研究において、生活をとらえるうえで福祉と福祉以外のものをどのように扱うかという検討課題も改めて明らかになった。疾病を抱えながら生活する高齢者を例にすると、医療分野と福祉分野が入り混じっており、痛みを抱えた生活という困難、医療機関の対応への不満からくる生活のしづらさなど、どこまでを福祉分野として扱うかの判断は難しい。また、福祉と福祉以外のものを線引きすること自体をするべきではないという言及も複数みられた。 以上のことから、今後は基礎研究として、まずは福祉ニーズ・生活困難の概念とこれに関する論点を整理することが必要と言える。
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