研究課題/領域番号 |
15K03959
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
柴田 邦臣 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00383521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 障害者・児 / 社会参加 / メディア / リテラシー / 生の技法 / インクルージョン / コンヴィヴィアリティ / 共生 |
研究実績の概要 |
本年は当研究の初年度にあたるため、現実的な「生のリテラシー」を蓄積し活用するための、(1)社会的背景の整理、(2)生活場面での情報技術の具体的活用の2点に取り組み、それぞれ成果を得た。 (1)社会的背景の整理として、まず2016年施行の「障害者差別解消法」の整理と社会的価値を整理し、その中で生き学ぶことの背景を概観し、柴田(2015a)として執筆した。さらにそれらが設計側のアーキテクチャではなく、当事者のリテラシーに着目する必要があることを、柴田(2015b)(西垣ほか,2015内)で言及した。 それらを活かして(2)情報技術の具体的活用として、福祉領域におけるメディアと生きるリテラシーの関係を、具体的に調査票調査、およびインタビュー調査にもとづいてまとめたものを2つ上梓することができた。特に専門領域である難聴者の生活場面におけるメディアとしてClosed-Caption(メディア上の文字表現としての字幕)に注目し、キーワードとして「社会的包摂(インクルージョン)」と「共生(コンヴィヴィアリティ)」を2つの尺度として考えるという枠組みを作り上げた。その成果が柴田ほか(2016b)である。この成果は本邦初だけでなく、国際的にも類例が、Zdenek(2015)しかなく、顕著な成果だと評価できる。 さらに具体例としてのデータベース・アーカイブを試作し、タブレットでの出力をおこなう術を検討した。そのプロトタイプはShibata(2015)において発表されたが、さらなる発展的枠組みとして柴田(2016a)で公刊されている。掲載された雑誌『現代思想』は、著者の研究領域を代表する雑誌であり、それに掲載され評価をいただいたことは、本科研の当面における、最大の実績といえ、本研究が今後学術的にも評価され、また社会的要請に応えるための、重要な手がかりを得たということができよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、そもそも、障害者のメディア利用における社会科学的研究がほとんどなされていないなかで、その基本的な分析枠組みから、具体的なメディア利用までを射程に入れたものである。その意味では、先行研究の不足にたいして、道を切り開く作業をしながらでもあり、自己評価としても十分、進展をみせ、成果を上げていると考えることができる。 本研究の基本的枠組みは、障害者の生きる場における「生きる知恵」をリテラシーとして把握し、メディアをとおして互いに活かす術を探るところにある。特に初年度としての背景整理と理論枠組みの確立を計り(柴田2015a,b)、「生きるリテラシー」の量的調査、質的調査に繋げた点は、計画どおりの進展だといえる。その成果を体系的に整理し上梓できた(柴田ほか2016b)ことも、順調さをしめしているといえよう。フィールドワークについても、宮城県を中心に予備調査に入ることができており、現在執筆中の成果として公表できる予定である。また、その情報技術による活用も順調に進んでいる。その基本的フレームワークは、Shibata(2015)として国際学会においても報告されたし、柴田(2016a)として、学術領域に置いても著名な雑誌に掲載された。このことは望外の成果だと自己評価できよう。現在、プロトタイプの開発にも取りかかっており、相当の進展が見込める。 ただし、その進展が顕著に計画以上だと断言できない理由は、「生のリテラシー」を測定するための尺度の把握に手間取っている点が残っているからである。「生のリテラシー」の測定方法を、完全に確立できていない理由は、第一に日本国内の先行例では限界があるからと判断している。次年度には、本科研の国際化をすすめ、海外の例をより習得して、次年度の最優先課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目以降の推進として、大きく3つを重点化しようと考えている。 まずひとつめは、「生のリテラシー」を正確に把握し、蓄積するための尺度の発展である。すでに2015年度に「インクルーシブ」「コンヴィヴィアル」といった基本枠組みは作り上げたが、より実践的にするためには、国内での先行例が少ないという問題があった。2016年度は集中的に、アメリカを中心とする海外の例を収集し分析することで、本研究の精緻化をはかる。 2点目は、本調査としてのフィールドワークである。そのひとつである宮城県での調査は順調に推移しているため、今後は「生のリテラシー」を比較対照し蓄積するための、より大きなフィールドでの調査研究に傾注する。そのために海外でのフィールドワークに重点的に取り組む。それらを受けて、具体的なタブレット・メディアのアプリと、ネットワークを活用したデータベースの製作を進めていく。 3点目として、今後の本研究のスプリングボードとなるのが、本研究の発展型が「国際共同研究加速」に採択された点である。すでにアメリカとの連携を進めており、2016年後期からUniversity of HawaiiのCenter on Disability Studiesに、Visiting Scholarとして滞在する計画が進んでいる。Center on Disability Studiesでは、Visiting Scholarとしての資格を取得し、半年間に渡って自分の研究室を構えて研究に努めることになっており、現地でのフィールドワークと連携開発の拠点を設けて、腰を落ち着けて調査研究をすすめることができる。 上記の3点とあわせ相乗効果をはかることで、研究の国際化を進め、障害のある人のための生のリテラシーを共有するための研究を推進していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度より研究費を繰り越すことができた理由は、主に2つある。ひとつは、当初計画で見積もっていた調査旅費、および人件費が、大幅に削減できたためである。当初はフィールドのひとつとしている宮城県での予備調査に少なくない経費がかかると見積もっていたが、現地の移動や宿泊において、地元NPOの自家用車に乗せていただいたり、無償で調査にご協力いただいたりできるようになるなど、大幅に削減することができた。さらに人件費に関しては、電気通信財団助成など本研究に関連するご支援を得ることができたため、大幅に縮減できた。 もうひとつの理由は、本研究が2年目の2016年に大規模な本調査、特に海外調査を予定しているため、その効率をあげるために、初年度の海外出張をセーブして2年目に実施するように変更したからである。残金の大半は海外旅費として計上したものの繰り越しである。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究を「国際共同研究加速」に申請する段階で、採択に関わらず海外フィールドワークを2年目へスライドし研究費を集約することで、より長期間かつ質を向上させた在外研究を実現させるプランを練っていた。ご採択いただいたことでCenter on Disability Studiesに拠点を構え、半年に渡って調査研究を実施することができる。スライドした研究費を、相乗効果を出せるように役割分担しつつ執行する計画である。 まず当初予定の「アメリカ『就労・自立生活』調査」を自立に関わらず全体的な『社会参加のリテラシー調査』とバージョンアップし、地点も1カ所ではなく複数箇所を想定して在米期間を活かして実施する(60万程度)。次に在米の研究者・技術者に依頼し、より先進的なシステム構築を計る(30万程度)。半年間研究に集中できる今年度を勝負の年として、研究費を惜しみなく使用して実績をあげたい。
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