研究課題/領域番号 |
15K03959
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
柴田 邦臣 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00383521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会参加 / 障害者・児 / リテラシー / インクルージョン / 共生 / 教育 |
研究実績の概要 |
本年は当研究の3年目にあたる。本研究は研究年度を一年延長したことで、(1)研究の精緻化、(2)アプリ開発の実践化、そして(3)国際展開の志向の3つの点での発展をめざすステップを踏んでいる。 まず、(1)研究の精緻化として、本研究の理論的な枠組みを、より詳細に論じる作業をおこなった。具体的には、昨年、在外研究としてアメリカ滞在中に知悉することができたErving Goffmanの理論展開についてフォローをおこない、本研究における「生きる知恵」との理論的統合を試みた。その成果は、Pacific Rim International Conference on Disability and Diversityにおいて報告された。 同様に、(2)本研究の主眼である、具体的なアプリの開発も進めた。特に今年度は、関連する各種研究の成果を活かし、難聴および発達障害児のコミュニケーション・リテラシーを具体的に支える局面に焦点を当てた実践をめざし、状況を具体的に表記するピクトグラムの搭載、および文字表記の搭載を試みた。その成果は、International Association for Development of the Information Society にて投稿・採択され公表されている。 最後に本研究を元とした国際共同研究加速の採択をうけた(3)国際研究としての推進である。特にインクルーシブな社会におけるリテラシー形成という点で、在外研究中に大いに学んだという点を活かし、障害のある者・学生の社会参加とそのためのリテラシーについて、先進地アメリカと日本の現状の比較分析を進めた。それらの成果は、Augmentative Talent & Acceptable Community Conference 2017などにおいて報告することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、当初予定から1年の延長をおこなった。その理由は、本研究の発展として国際共同研究加速科研費に採択されたため、長期の在外研究期間を過ごしたことで、より広い視座で研究を捉え、時間をとって洗練化する必要が生まれたためである。そのような観点からして、本研究は終了前年度の3年目としても、十分な進捗を果たすことができたと考えている。 まずひとつめは、本研究の理論的なバックボーンに、アメリカをはじめとする国際的なTheory Studiesの動向を取り入れることができた点である。「社会参加のリテラシー」を、Erving Goffmanの理論を活かした議論について触れることができた。Goffmanの理論は元来、障害のある人についてのDisability Studiesとも相性が良い。そのためその理論を、主著”Reration in Public”を参考に具体的に読み解き、研究面への応用をはかった。国内では把握しにくい国際潮流も合わせつつ、研究の精緻化を目指すことができた。 次に、障害者・児むけのタブレット・アプリとして、以上の理論的な成果を深めるかたちでの開発に打ち込むことができた点である。関連する研究者からの協力を受けながらすすめることができ、成果も学会発表などすることができ、本研究にとって極めて重要な進捗であるといえる。 もちろん国際共同研究加速の科研費とは妥当な役割分担をすることを意識しており、特に今年度の本基盤研究においては、日本国内の障害者・児の動向を踏まえた研究活動に傾注してきた。その動向も学会発表などの成果に結びついている。 本研究は一年間の期間延長をおこなったことで、当初の予定を顕著に上回るとまでは言えないと評価を控えたが、順調に研究の精緻化を図ることができている。最終年度には実証調査を踏まえた執筆や報告を重視し成果をまとめ上げたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまさに本研究のまとめとなる年である。そのため推進方策を以下のように3つたてている。 まずひとつは、障害者・児の社会参加にむけたアプリの開発の完成である。在外研究などでの成果を受けて、現段階で難聴児や発達障害児のコミュニケーションや、生活上の行動を支えるアプリとして目処がついており、すでに論文などでの報告しているところであるが、今年度は実際にユーザーによる実証調査を企画し実施する。すでに一部の実証調査に取り掛かっており、データ収集が進んでいる。 もうひとつは、国際研究を活かしたアプリの洗練化と、それによる社会面での利用調査である。そのなかでもVideo Self ModelingはHitchcock(2011)らによって、近年注目を集めるようになっており、特に発達障害児の社会的リテラシー獲得や、その他の障害者の教育として活用されつつある。これらの在外研究での知見を活かし、現在、アプリにVideo Self Modelingのためや難聴者のためのSign Languageを記憶し表現できる機能を搭載している。今年度はその機能を、実際に障害のある人・児の社会生活の中で利用していただいて、「共生のリテラシー」として環境全体から求められる論点を浮かび上がらせる予定である。 最後に、以上の成果を学術的に発表するとともに、そこから得られた知見を社会的に提言していく活動として結びつけていく企画を立てている。特に本年度の後半は、アプリやその利用場面の社会調査を成果として公表し、社会に問う作業を重点的にすすめる。国際会議での報告、英文でのジャーナルへの投稿、そして、障害者の社会参加から、そのためのリテラシーや「学び」という観点での、単著での公刊がスケジュール化されている。実際に具体的に、社会に対して本研究の意味を発信していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度執行予算が発生した理由は2点ある。まずひとつめは、本研究は国際共同研究加速での国際発展の機会を得たことにより、在外期間が長期にわたって発生したため、その分、国内を目的とした人件費や消耗品代などの執行が、全般的に後ろにずれ込んでいることがあげられる。 もうひとつの理由は、今年度の研究進行が、昨年度の長期在外研究の調査結果などを整理し、精緻化することに費やされることとなり、事前の想定よりも執行金額が少なくなったからである。当然の事なから、必要な物品費は執行したものの、腰を落ち着けての分析作業が中心となったため、人件費に関しては費用がかさんだということがなかった点が理由としてあげられる。 しかし今年度は延長しての最終年となるため、精緻化した分析結果を活かしたアプリ開発を進め、実際に成果を発表していく年度となる。バグチェック・ユーザーテストなど開発を仕上げたり、成果の公表したりするためには相当程度の人件費が必要と予想されたため、あえてセーブし次年度使用分として計画した。適正に執行し、また論文投稿・発表の費用も最終年度に重点的に使用して、研究成果を仕上げていく予定である。
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