これまで、「社会的マイノリティ」の社会参加は、常に日本社会における中心課題であった。社会福祉・障害者福祉の領域においても、テクノロジー面を担当する情報学等の領域においても、社会参加の実現には、多くの労力をかけられてきた。本研究の目的は、障害者福祉の領域において、「必要な知識」が「必要な人」に共有され継承される方法の探索にある。今年度は本研究の最終的なまとめとして、これまでの実績を整理するとともに、いくつものチャレンジをおこなった。 まず、「生のリテラシー」の理論的な整理である。障害者・児が生きるためにそれぞれ編み出している技法を、「自立とケイパビリティ」という横軸と、「参加とアクセシビリティ」という縦軸に配置し、その交点から「生のリテラシー」を考察するという理論枠組によって整理することができた。生きる体験をリテラシーとして抽象化して記述し、その結果、参照・共有をめざすようにするという研究はほとんどなく、本研究が今後学術的にも評価され、また社会的要請に応えるための、重要な手がかりになっていると言えよう。この理論枠組は、実際にアプリおよびデータベースの開発をする際の、A)自立生活、B)学習、C)社会参加の3要素の抽出概念としても機能している。それらの一部は柴田ら(2018)などで報告されるとともに、社会背景分析をあわせ柴田(2019)に収録される予定である。もうひとつのまとめとしての実績は、「生のリテラシー」を具体的に記録・抽出し、それを自分が参照したり他者と共有・コミュニケーションしたりできるようにするアプリケーションの開発である。研究協力者や関連研究者とのコラボレーションを経て、具体的なアプリケーションを製作し、試用・検証をすることができ、特に障害者・児の状況理解に大きく寄与することがわかった。Shibata et al.(2019)として査読誌にアクセプトされ掲載される。
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