本研究では,これまで東アジア諸国・地域の雇用保障・社会保障政策に関する研究から得られた「後発福祉国家論」という視点にもとづいて,①日本,中国,韓国における家族政策の歴史と現状,そしてその雇用保障・社会保障政策との関連性についての国際比較分析を行い,これにより②後発福祉国家論のさらなる理論的発展を試みるとともに,③各国の制度改革の方向性および東アジア域内・外での人の移動を視野に入れた共通政策の可能性を探ることを目的とした。 本研究を通じて,当初予定していた日本,中国,韓国はもちろん,台湾,シンガポール,タイ,ベトナムなどの他のアジア諸国・地域についての現地調査および文献研究を行うことができた。その主要な成果を以下いくつかの論文と研究書として発表することができた。 論文として,「韓国――増加する単独世帯者の高学歴化と高齢化」(金炫成との共同執筆)『アジ研ワールド・トレンド』No.238(2015),「高齢者の生活保障――韓国的特質とその意味」『週刊社会保障』No.2888(2016),「経済協力から社会協力へ向かう日韓関係――共通基盤形成への途」『RIM 環太平洋ビジネス情報(別冊)』(2015年)では,日韓を中心として,主に高齢化および高齢者の生活をめぐる諸問題および諸政策に着目しその実態と特徴を明らかにしつつ,アジア共通政策の可能性と課題を論じた。編著として,『アジアにおける高齢者の生活保障――持続可能な福祉社会を求めて』(大泉啓一郎・松江暁子との共編)明石書店(2017年)では,アジア7国・地域における高齢者の生活とそれをめぐる諸政策の実態と特徴,その類似点と相違点を探り,その実践的・理論的意味を明らかにした。 以上をふまえ,「後発福祉国家論」の次なる研究課題を明らかにできたことが,本研究の重要な成果といえる。
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