わが国の社会的養護システムの形成に重要な役割を果たした貧孤児救済施設の里親委託について、その実態を解明する作業を進めながら、主要な事例としての福田会育児院を中心にその他の施設との比較検討により、総合的な分析を実施した。 昭和戦前期までの貧孤児救済施設による里親委託は、救護法をはじめとした公費の充当によって安定化したこと、民間施設である福田会育児院は、委託コーディネートの技術を向上させる意欲的なものであったことを確認した。一方、他の育児施設については前年度に引き続いて訪問調査を継続し、里親委託における里親と里子の動向が十分に把握できないこと、離乳後の子どものみを対象とするため里親委託の取り組みが見られない施設もあることがより明確となった。この点については、里親委託を必要とした地域とその理由についての全国的な調査を行う必要があると考えられる。なお、これまで構築した里親と里子のデータベースについて、入力情報の範囲の追加及び調整を施した。それに先だって追加資料の見直しと翻刻を継続的に実施した。国外の事例からはわが国の里親委託導入との直接的関連は判然としないが、子どもの保護を図る目的、里親による養護を安定的且つ組織的に実施する体制が組まれていたこと、里親委託を行う上での課題には共通点があることが明らかとなった。 今年度は本研究の最終年度にあたるため、研究成果のまとめとなる論考の作成に向けて、社会事業史学会第45回秋季大会において「明治期の育児院における養護実践―院外養育の検討―」を、日本社会福祉学会第65回秋季大会において「社会的養護の草創期における里親制度」をテーマに研究発表を行った。
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