本研究は、路上生活等の経験がある高齢の生活困窮者を対象として2段階で調査を実施し、社会的つながりの構造と変化、支援策を構築するにあたっての対象者からのニーズについて明らかにした。 第一段階の質的調査(面接調査)により、調査に参加した対象者たちは、社会的役割や家族との連帯を喪失し、他者との日常的な接触を失い、孤独に過ごしていた実態があった。しかしながら、信用できる支援者や知り合いからの誘いで集いの場に参加をすることにより、新たな社会的つながりを見出し、孤立から脱出を可能にしている者たちもいた。人は他者とのつながりがあって存在価値を持つことができる、その価値観はどんな状況下にあったとしても等しく必要であること、特に壮年期に地域との交流がなく、仕事を介した社会的つながりを唯一にしてきた男性たちは、高齢になり、家族や地域といった伝統的な社会的つながりから得る信頼感や安心感に縛られない、新しいつながりを模索していることが明らかになった。路上生活を経験したものが、路上から定住を果たしていくプロセスは、螺旋階段を上がったり、下がったりしながら、進んでいく様相が浮かび上がった。彼らが再度路上へ戻ることを予防するための支援として、段階を踏んで、彼ら自身が社会的つながりを再編していく伴走をしていくことで可能となる一助が見出せた。 第二段階のアンケート調査により、日常的に会話する人や接触する機会が全くない人の割合が高かった。また、家族・親族と接触する頻度が全くない人の割合が高かった。現在の住まいに住んでいる期間が長いほど、他者へ相談する場・接触する機会や、他者と交流を楽しめる場がある割合が高かった。これらの調査結果から、一旦他者との接触を失ったとしても、安定した住まいと経済的な保障が基盤に整い、その上でゆっくりと他者と交流するきっかけを得て、社会とのつながりを再編することができることが示唆された。
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