本研究は、福祉の根源としての価値意識、社会福祉哲学と宗教性の関連に焦点をあてるものである。その際、宗教性をいわゆる宗教の組織やその教義ではなく、組織化されていない霊性としてのスピリチュアリティであると定義し、その上で、それを理性言語である福祉哲学との枠組みにおいて具体的に検証を試みるものである。研究対象は、社会福祉哲学の枠組みとスピリチュアリティの関連を理論的に検証することである。そのうえで、社会福祉事業家の宗教性を歴史的に分析していき、その教派性や宗教意識(スピリチュアティ)について思想史的に分析する。上記研究題目にかかわり、同志社大学良心学研究センター、人文科学研究所の研究会においても、この領域にかかわる宗教、スピリチュアリティにかんする情報の収集、研究発表など行った。また今期は、ハワイを訪問してマキキ教会での奥村多喜衛の資料調査や、この領域の世界的な権威であるDaniel Lee教授とも面談し、レヴューを受けることができた。 今期の主な研究成果としては、口頭発表としては日本キリスト教社会福祉学会第59回大会に招聘されて、和泉短期大学「弱さの向うにあるもの」と題して基調講演を行った。また、同志社大学良心学研究センターの編集で『良心学入門』岩波書店を刊行したがそのなかで、本研究に関連する「社会福祉と良心」という論文を公刊した。また、論文としては、「ジョージ・ミュラーの思想形成におけるフランケの敬虔主義の影響について」『評論・社会科学』を、また上記記載の基調講演をもとに「弱さの向うにあるもの―コンスタンティヌス主義に抗して―」『キリスト教社会福祉学研究』(第51号)を公刊することができた。
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