研究課題/領域番号 |
15K04014
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研究機関 | 北星学園大学短期大学部 |
研究代表者 |
藤原 里佐 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 教授 (80341684)
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研究分担者 |
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (60413415)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 障害者 / 親 / ケア / 高齢期 / ニーズ / 親子分離 / 支援 / 事業所 |
研究実績の概要 |
①高齢期の障害者家族へのヒアリング調査。80代、90代の親世代が、成人知的障害、重複障害をもつ子どものケアを担う困難性、社会資源との関係性、自立観等を聞き取りし、子どもの安定した生活を維持するために、親の生活スタイルを変更することが難しいということが分かった。親の健康状態、認知症の発症、配偶者の要介護などにより、支援が限界に達した場合、きょうだいがケアの担い手になる傾向も見られる。②向老期、加齢期の障害者家族の状況を子どもが所属している事業所がどの程度、実態把握をしているかについての調査。事業所の通所者・入所者のうち、母親が65歳以上の方を対象に、大阪、福岡、北海道の事業所において悉皆調査を行った。ここでは、すでに親が亡くなり、きょうだいや他の親族が第一ケアラーとなっている事例が含まれていた。入所施設の場合には、書類上の「身元引受人」が障害当事者と面識がないなど、親亡き後の支援は、生活管理、経済的管理を含め、事業所が担っている実態も窺えた。事業所は、高齢になった家族との連絡調整のみならず、親の看取り、子どもとの面会援助、持ち家の片付けなど、インフォーマルな業務が多岐にわたっており、今後、利用者の高齢化に対して、不安を抱えていることも分かった。知的障害をもつ子ども自身の加齢化、障害症状の進行も顕在化する中で、医療行為の選択、入院時の付き添い、延命治療の有無などを、家族と事業所が協働して判断、実行することも求められており、障害者とその家族の高齢化に即した支援が質量ともに増幅していることが明らかになった。 ③フィンラドでの障害者家族調査。学齢期終了後に、自立が進められているが、子どものケアを担う事業所に対して、親の介在が比較的多く見られた。よりよいサービスを受けるために、高齢になった親も、監護的役割を果たしている実態があり、この点を日本と比較検討する意味があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事業所職員に記載を依頼した、「向老期・加齢期の障害者とその家族の生活実態調査」を300ケース実施できた。協力事業所の方と調査報告会を開催することにより、支援者の視点から見る、「利用者の加齢化、家族の高齢化がもたらす生活の変化」「事業所機能の多面化」を把握することができた。本年度は調査の実施とデータの大まかな整理まで進めることができたが、調査項目ごとの分析は次年度となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、在宅の知的障害者とその家族の生活を中心に調査してきたが、研究計画3年目に当たり、知的障害者入所施設、グループホームへの生活分離を遂行した家族に着目する。生活の場を移行することに伴う経緯、準備、分離後の子ども支援の実態を考察する。グループホーム入居のきっかけは、通所事業所のグループホーム新設、入所・入居先の空き状態など、障害者と家族の都合やタイミングというよりも、事業所や施設の事情で、自立を決意する傾向が多いという仮説を前年度の研究調査で得た。つまり、障害者自身の生活分離の準備や、家族の意向で、離家が行われるのみならず、地域の社会資源、経済的な費用、生活スキルなどの要因も生活分離の機会や選択を規定していると思われる。 家族ケアが限界になる前に、子どもの自立を図るために必要な援助感、施策は何か。また、分離後の子どもの生活の質保証、一時帰省時のケア、家族との交流に際して、どのようなニーズがあるのかを高齢期の家族に聞き取りを行う。 合わせて、前年度に実施したフィンランド調査の考察を進める。フィンランドでは、障害者が青年期に親元から自立することが制度的にも、家族の感情的にも合意されている。しかし、生活分離後も家族交流は盛んであり、事業所への親の関与も比較的多い。その一方、子どもが居住するグループホームは地域とのかかわりが希薄であり、生活分離後も事業所のメンバーや、自身のケアスタッフとの繋がりが強い。障害者の地域生活という点から、こうした傾向を分析していくことで、生活分離の意味や、自立の在り方を再考することとする。 障害者のライフステージを概観するとき、子ども期、学齢期の支援の手厚さに比べて、成人期のライフイベントが乏しいことが課題であると考える。障害者の就労、社会参加、余暇活動などの機会を個別に拡充するのではなく、成人期全般を見通した支援という理念の構築をはかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度は、障害者生活介護事業所、並びにグループホームの職員に依頼をし「向老期・高齢期の障害者とその家族の生活実態調査」300件を実施することができた。本データーを項目ごとに入力し、自由記述をキーワードごとに整理をするための作業が残っており、次年度使用額をそれに充てる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究分担者と調査結果の分析、検証を行うために、札幌~京都間の2回の旅費を計上する。データーの解析が終了した段階で、調査を依頼した北海道、大阪、九州の事業所が一堂に会し、報告会と研究会を開催する予定である。また、広島県及びフィンランドからの研究協力者を助言者として招致したい。 東京の事業所で進めている、高齢期を迎えた障害者家族への聞き取り調査のための旅費、研究協力者への謝金、記録入力のための経費を次年度も支出する。
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