研究課題/領域番号 |
15K04015
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
佐藤 嘉夫 岩手県立大学, 研究・地域連携本部, 特任研究員 (20073033)
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研究分担者 |
小池 隆生 専修大学, 経済学部, 准教授 (40404826)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 農村の貧困 / 規範意識 / 生活様式 |
研究実績の概要 |
本年度は、「貧困と規範意識に関する調査」を、岩泉町、西和賀町において実施した。有効回答数は、前者220(有効回答率54%)、後者209(同59%)であった。これら二つを合わせて中間的な分析を行った結果は以下のとおりである。 ①貧困の理解・認識についてみると、これらの地域では、伝統的な貧困観が根強いことが確認された。何が貧困であるかという点については「衣」「食」「住」の不足や欠乏を最も多く挙げていて、「家族崩壊」や「社会的孤立」と「借金・多重債務」は、前者のグループに次ぐものと理解されている。②そうした貧困観とも関連して、貧困を個人責任と受け止めるものは7割に上っている。他方では、「生活保護が平等な権利である」ことの理解は7割前後と高いが、貧困の個人責任観のもとでは、貧困は「肩身が狭い、恥ずべきこと」(6割)であり、自らが生活保護を受給することへの否定感情が強く見られと同時に、福祉サービスの費用負担の肯定意識の高さにつながっていることが分かった。 ③こうした意識の土台、背景となっている生活や生活意識についてみると、生活水準が低く(「中の下」以下)や生活の困窮感(苦しい)が強く、消費生活の充実感も低いが、全般的な生活満足度は6割強と高いという実態がある。④さらに、その背後には、農村的生活様式(「物々交換」「もの消費が豊かさでない」「都市部の生活を評価しない」等)と地域規範(「地域への帰属意識」「地域の考えかた優先」、お互いさま=互酬性の規範、「皆と力を合わせて」等)の強い肯定傾向、意識がみられる。⑤しかし、他方では、「便利な生活」や「自分らしい生活」を希求するなど、農村と都市、個人と共同体、生活実態と規範、地域規範と法規範などをめぐり、パラドキシカルな生活・意識構造が存在していることが確認されたことで、本研究の課題である所得保障だけでない、貧困への政策的課題が明確になりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
29年度末に行った「延長承認申請書」に記したように、本研究の遅れは、調査研究フィールドである岩手県三陸沿岸の岩泉町の、東日本大震災を上回る大規模な水害によって、28年度に予定した2つの調査(地域住民に関する「貧困と規範意識に関する調査」「生活様式に関する調査」)のいずれとも、町との協議、被災地住民の被災感情への配慮の点から、実施を見送らざるを得なかったためである。 29年度早々から、町の協力を得て、準備をすすめ、サンプリングをはじめとした庁内の関係部署での協力体制、町広報での住民への調査の周知等の助力を得て準備を行ったが、発災の1年経過を待って、具体化に取り掛かり、ようやく11月に「貧困と規範意識調査」を実施することができ,その後の研究計画は予定通り遂行の目途がたっている。
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今後の研究の推進方策 |
二つ目の調査「生活様式に関する調査」についても、住民基本台帳からのサンプリングは、岩泉町、西和賀町とも済んでおり、夏前の農閑期に実施の予定で進めている。両町の役場とも、事前協議、事後報告などを行い、良好な関係が維持できているので、調査企画の遂行に特段の問題はない。 家計調査のサンプル(協力者)については、二つの調査の回答者から確保する予定で、すでに数名を確保している。 また、29年度当初から検討を行ってきた、「貧困と規範意識に関する調査」のレファレンス・グループ(対照群)については、京都市または大阪府吹田市での実施に向けて、現地の自治体、社会福祉協議会等との協議をすすめている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度末に研究期間の「延長願い申請書」を提出し、承認を受けた。 使用計画(内訳): 第2調査(「生活様式に関する調査」サンプル2町合わせて500)の発送アルバイト、郵送費、集計(データエントリー、データ加工費等)等、約40万円、家計調査(サンプル15)調査協力者および調査補助者謝金、集計費30万円、研究会および学会発表旅費30万円、その消耗品等
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