研究実績の概要 |
貧困の「農村的性格」に関し明らかとなったのは、貧困原因や解決責任の所在を個人にみる個人主義的貧困観・自己責任論が,農村的暮らしの中で相互扶助行動の高い人に強く見られること、対照的に,それが低く、経済的見通しの厳しい人ほど貧困原因を「社会」に見ていることである。又,自身の困窮ゆえに生活保護制度を利用するかでは,相互扶助行動の高い人で利用意向が低く、低い人ほど利用意向が高い。住民の権利意識だけではなく,生活保護制度などの社会規範の「厳格さ」など、規範力が農村住民意識に与える影響の強さが確認された。 経済的見通しが厳しく,生活保護制度の利用意向を持ちながら,利用に至らない人々が無視し得ない量をなしており、貧困意識を規定する「むら社会」の規範構造は、農村部における膨大な貧困を吸収する素地をなしていることが明らかとなった。 このような貧困観の「農村的性格」を規定する要因として,農村の実体経済の特徴である非貨幣経済,現物経済,贈与経済に加え,ストッ ク(住宅や土地、車)をどのように評価するかも重要であること、農村の地理的「不利」の典型としての社会サービスの偏在による通院・通学費の拡大や、社会生活の維持のための交際費など「強制された」家計支出構造が背景にあることも、家計調査の事例分析から明らかになった。さらにこれらを取り巻くものとして、農村コミュニティの相互扶助機能と相互けん制機能の存在が、著者らの同フィールドにおける先行調査および今次のヒアリング調査等で明らかになっている。 複雑な様相をなす農村の貧困の背後にある農村的な共助と差別・分断構造の中で、多くの住民がずれ落ちている「貧困」への直接的対応(「最低生活保障」)と、他方で、農村的生活・意識を踏まえた「社会標準」の両面から、貧困政策を展開することが重要である。
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