研究課題/領域番号 |
15K04018
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研究機関 | 龍谷大学短期大学部 |
研究代表者 |
中根 真 龍谷大学短期大学部, こども教育学科, 教授 (00309642)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 子どもの貧困 / 財団法人戦役紀念保育会 / 保育事業 / 生江孝之 / 地域福祉史研究 / 出征軍人児童保管所 / 神戸市婦人奉公会 / 戦争と福祉 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、保育事業が果たした貧困予防に関する過去のエビデンスを収集、分析し、「子どもの貧困」対策の1つとして再考するための歴史的な事実や知見の発見である。当初の研究計画では大正期・昭和期の財団法人弘済会の保育事業を対象としていたが、平成27年度中に研究枠組みの検討を重ねるなか、明治期にさかのぼる必要性が生じたため、日露戦争中・戦後の神戸市に焦点をあてた研究を行なった。具体的な研究成果として次の査読付き研究論文を発表した。 1 中根真(2016a)「財団法人戦役紀念保育会の保育事業構想―地域福祉史研究の意義について―」日本地域福祉学会『日本の地域福祉』第29巻、pp.43-53 2 中根真(2016b)「出征軍人児童保管所の創設とその背景―地域福祉としての保育の歴史的源流の1つとして―」「地域福祉研究」編集委員会編『地域福祉研究』公4(通算44)号、pp.90-99 第1論文は『戦役紀念保育会第一回報告書』(1908年)第1章「児童保育事業の要義と其必要」を詳しく検討し、保育所設立の必要が5つの必要(児童教育、軍人遺家族援護、家庭改良、生産力増殖、貧民防遏)から主張されていることを明らかにした。その上で、地域福祉史研究の意義として保育所設立の必要を包括的に論じていた点と内務省政策に対する先導性の2点に見出した。第2論文は神戸市における出征軍人児童保管所(1904年)が内務省のリーディング・ケースであった点に注目し、創設とその背景を詳しく検討した。具体的には神戸市婦人奉公会の創設経緯や児童保管所の概観をふまえ、児童保管所が現金扶助の抑制・低減を目的とし、その原動力は地域婦人が「女性の本分としての遺家族の救護」に「応分の力」を発揮できる場と機会を得たことにあると分析した。 以上によって、明治期における保育事業の社会的・国家的な位置づけをある程度明らかにできたと総括できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究枠組みの検討には当初の計画以上に時間を要したが、大正期・昭和期の財団法人弘済会の保育事業を的確に捉えるためには、明治期の保育事業が社会的・国家的にどのように位置づけられていたかをふまえておく意義があったと考えている。 日露戦争中・戦後対策としての保育事業という視点、つまり保育事業対象が軍人遺家族から生計困難家族に拡大され、一般化されたこと(保育事業の転化)は、大阪市における弘済会保育事業の分析にも有益である。なぜなら、先行研究では以上の保育事業の制度・政策的な経路が十分考慮されていなかったと考えられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は収集済みの史資料に依拠して、弘済会保育部の設置(1913年10月)以降、1926年までの大正期を分析対象として研究を推進する。 ただし、この対象期間には米騒動(1918年8月)や方面委員の設置(1918年10月)、大阪市立託児所の開設(1919年7~8月)、大阪市社会部の設置(1920年4月)など、弘済会保育部の保育事業に影響を及ぼしたと考えられる契機が複数含まれいる。したがって、都市社会政策の全体と部分の関係にも留意しつつ、弘済会保育部の保育事業が果たした歴史的な役割を慎重に明らかにする。
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