研究課題/領域番号 |
15K04024
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村本 由紀子 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (00303793)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 自己と他者 / 一貫性の認知 / 集団規範 |
研究実績の概要 |
本研究は「自己と他者の境界」に関する問題に多角的に迫るため、以下の2つのテーマに即して一連の実証研究を行うものである:①自己認知と他者認知のズレやバイアスに関わる現象を、自他の心理的距離の連続性を視野に入れて捉え直すことによって、「自己認知と他者認知はどこまで近づき得るか、どこが決定的に異なるか」を探る;②集団規範の維持プロセスの検討を通じて、「自己認知と他者認知のズレがもたらす社会的帰結」を明らかにする。 平成27年度は、テーマ①に関して、他者および自己が過去・未来の複数の状況下でいかにふるまうかを尋ねるプレリミナリーな質問紙実験を実施した。手続きはNussbaum et al.(2003)を参考に再構成した。解釈レベル理論(e.g., Trope et al., 2000)に基づけば、社会的距離の遠い他者に関する思考ほど抽象的となり、文脈による変動が小さくなるのに対して、自己に関する思考は具体的で文脈重視になりやすいとされる。しかし他方で、人は自己同一性、自己認知の一貫性を保持しようとする傾向をもつことから(e.g., Campbell, 1990)、自己に関する思考の方が文脈の影響を受けにくい可能性もある。結果は解釈レベル理論による予測を支持せず、社会的距離の遠い他者<近い他者<自己の順で行動の一貫性がより高く認識されていた。研究成果は8月にフィリピンで開催されたアジア社会心理学会で発表された。 テーマ②に関しては、研究室所属大学院生との共同研究として、小集団実験を実施した。参加者は、他の成員が順番に行動選択をする様子を観察したうえで、自らも同様の選択を求められた。このとき、実験的に作り出された(特定の選択行動をとるという)規範に参加者が気づいて同調するに至る先行要件について、個々の他者の選好の推測と他者の行動に対する評価をシークエンシャルに測定することを通じて検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、上記の通り2つの研究テーマを柱として自他の認知の連続性と境界に関する多面的検討を行っているが、いずれのテーマに関しても実験を実施し、一定の成果を挙げることができた。テーマ①に関しては、複数状況下での自己や他者の一貫性(cross-situational consistency)の認知が社会的距離に応じてどのように異なるかという問題に対して、基礎的なデータを得ることができた。またテーマ②に関しては、当初予定では企業を対象とする収集済調査データの再分析のみを計画していたが、これに加えて小集団状況での個々の成員のシークエンシャルな意思決定過程を実験室で観察するという手法を用い、集団規範の生成・維持過程という実証の難しい問題にアプローチすることができた。前者については当年度中に学会発表を行ったほか、後者についても平成28年度に成果発表を行う予定である。以上より、現在までのところ、本研究はおおむね当初予定通りの成果を生んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、テーマ②「自己認知と他者認知のズレがもたらす社会的帰結」に関する検討を掘り下げ、進展させていきたい。具体的には、平成27年度に実施した集団規範の維持・再生産プロセスに関する実験室実験において、新たな知見と課題の双方が明らかとなったため、その発展的追試を行う。同種の研究課題に関する社会調査による検討も推進する。また、収集済みの企業組織データの再分析を通じて、組織の規範とリーダー・フォロワー間のコミュニケーションとの関連について検討する。 テーマ①に関しては、昨年度に実施した実験の結果を踏まえて、社会的距離の概念に関するさらに精緻な検討と、自他の振る舞いの推測に際しての「熟慮」の効果の検討を組み込んだ、新たな実験デザインを構築し、実施したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国内出張のうち1件(奈良大学で開催された日本グループ・ダイナミックス学会への参加)を体調不良で見送ったこと等から5万円程度の残額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は2つの国際学会が日本開催となることから、成果発表のための国内主張が例年より多くなる見込み。具体的には国際心理学会(横浜)、国際比較文化心理学会(名古屋)、日本社会心理学会(関西学院大学)、日本グループ・ダイナミックス学会(九州大学)への参加を予定しているため、これらにかかる旅費を支出予定。その他、新たな実験室実験実施のため、昨年度同様に実験材料や参加者への謝礼等、またPC購入を予定している。研究の進捗次第で社会調査も実施予定。
|