本研究課題の最終年度に当たる平成30年度は、マクロな社会環境とマイクロな個人の信念との相互影響過程や、自己と他者との相互作用を通じた共有信念の形成過程を、現実場面に即して検証することを主目的として、一般サンプルを対象としたWeb社会調査を実施した。調査では、教育学習場面における能力や能力に関する信念(暗黙理論)が形成され共有されるメカニズムに焦点を当てた。具体的には、学校教育のシステムや学習課題の選択肢の多寡といった環境要因の違いに応じて、個人が課題遂行に際していかなる暗黙理論を持つことが適応的といえるかが異なる、という仮定に基づき、回答者および周囲の他者の進路選択における選択肢の多様性や、それらに対応する教師や親からの期待のされ方が、回答者の能力観や努力観の規定因となり得ることを示した。 また、本研究課題のもとで2016年度に大学院生とともに実施した実験研究の成果論文「多元的無知の先行因についての検討:他者の選好推測に注目して」(2017年公刊)が、日本グループ・ダイナミックス学会の平成30年度学会賞(優秀論文賞)を受賞した。また、学部学生らと共同で過年度に実施した実験室実験の成果を再分析・再構成した論文「リーダーの暗黙理論がチーム差配に及ぼす影響:失敗した成員に対する評価に着目して」、大学院生の主導で過年度に実施・分析したWeb調査の成果論文「規範遵守行動を導く2つの評判:居住地の流動性と個人の関係構築力に応じた評判の効果」(いずれも2017年公刊)についても、日本社会心理学会の平成30年度学会賞(前者は優秀論文賞、後者は奨励論文賞)を受賞した。 さらに、これまでに実施した研究の成果を、カナダで開催されたInternational Association of Cross-Cultural Psychologyをはじめとする国内外の学会大会で発表した。
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