北米に比してアジアでは援助要請やサポート要請が抑制されやすいという文化差について、従来はアジア圏における関係懸念の高さによるものと説明されてきた。しかし、関係懸念には調和追求や排除回避という多くの側面が含まれており、そのいずれが援助要請を抑制するのかは不明瞭である。また、援助要請の抑制が集団に不利益をもたらす可能性や、援助要請によって親密化が進展する可能性なども考慮すると、調和追求や排除回避が直接的に援助要請やサポート要請を抑制するとは限らない。 そこで、貢献感と互恵性規範による代替説明が考えられる。すなわち、通文化的に援助授受では互恵性が重視されるので、自身の援助提供が過少であるにもかかわらず、過剰に援助受容することは、互恵性規範に反する行為となってしまい、集団からの排斥リスクを高めることになりかねない。そこで人々はそのような状況を未然に防ぐべく、貢献感が低いほど援助要請を抑制するものと予測される。実際に日本人成人を対象としてこの仮説を検討した橋本 (2015) では、仮説を支持する知見が得られている。 この理論は通文化的と考えられるので、援助要請の文化差もこの理論によって説明される可能性が考えられる。すなわち、貢献感の文化差が援助要請の文化差と連動しており、調和追求や排除回避といった関係懸念にまつわる要因は、貢献感を媒介して間接的に影響を及ぼすのではないだろうか。 そこで本研究では、貢献感が援助要請の文化差を説明する可能性について、代替説明も考慮しながら検討した。平成29年度は前年度までに実施された研究成果を刊行するとともに、そこで見出された問題点を改善したオンライン調査を日米で実施した。その結果、互恵性規範による調整効果は示されなかったものの、サポート要請の文化差が貢献感によって説明されうること、一方で関係懸念に類する概念の直接的な説明力は不十分であることが示唆された。
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