研究課題/領域番号 |
15K04035
|
研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
浅井 亜紀子 桜美林大学, 言語学系, 准教授 (10369457)
|
研究分担者 |
宮本 節子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (60305688)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 文化接触 / アジア系医療従事者 / 看護師アイデンティティ / キャリア選択 / 自己再構築 / 動機 / インドネシア / 経済連携協定 |
研究実績の概要 |
本年度の目的は、EPAインドネシア人看護師の日本体験についての理論化と、研修終了後のキャリア展開における心の動きとその背後にあるマクロ要因を検討することである。 イ看護師候補者の来日当初の正看護師でありながら看護助手や介護福祉士として扱われることで感じる否定的情動への対処方略を、自己の意味の再編成という視点から理論化を進めた。候補者は、看護助手の立場を甘受した候補者は,看護師国家試験合格の目的を明確にし,自己の中に新たに受験生としての意味を創出させ,勉強に励んだ。自己の新しい意味づけは、日本人看護師, EPA仲間など他者との関係によって可能となった。個人内の意味空間の再編には,否定的情動の解消が重要で,正看護師としての自己評価基準の高さや領域の変更,目標設定がなされていた。 イ看護師の研修終了後の継続就労をする場合と、帰国後のキャリア選択する場合の影響要因を、国内とインドネシアでの聞き取り調査から検討した。合格者の継続の理由は、看護技術と知識の習得、日本語力の向上であり、職場環境と自身の能力の認識と欲求を調整している。急性期患者を扱う病院ではさまざまな看護技術を学べるが、日本語力の限界や日本人とのコミュニケーションの困難から、技術的に比較的容易な慢性期病棟に落ち着く。継続の大きな動機は家族にとっての経済的メリットである。 国家試験合格帰国者の主な帰国理由は、結婚は30歳までという社会通念で、家族志向や、イスラム教の教えなど宗教的価値観が背景にある。帰国者の看護職か非看護職かの選択には、看護師アイデンティティの強さ、自身の看護技術の自己評価、日本語活用や新しい事への挑戦欲が関係していた。制度(マクロ)からくるマイクロレベルの否定的な心理(合格後のサポートの欠如感)に対処するため、在日イ看護師の中には看護師協会日本支部を設立するなど、メゾレベルでの互助組織を作り出す動きも出てきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
EPA医療人材の受け入れ制度をめぐり、日本側の制度とインドネシアの送り出し政策は著しい変遷があり、複雑である。日本側の制度は、国家試験問題改訂(わかりやすい文章、難解な漢字への振り仮名付記、疾病名英語併記)、国家試験受験不合格者に滞在延長、再受験制度、滞日前日本語研修延長、看護師国家試験時間、問題改訂など、毎年のように制度改善が加えられている。現在介護福祉士候補者の活躍促進策が検討されており、受入れ対象施設の範囲の拡大(同施設内の障害者施設やデイサービス)、EPA介護福祉士の就労範囲の拡大などが検討されている。2015年度は看護師への聞き取りが中心となり、国内の介護福祉士の動きに注力できなかったため、2016年度は介護福祉士への聞き取りを進めて行く必要がある。 一方、インドネシア側は、保健医療人材の教育・資格制度の整備と質的向上を積極的に進めている。2012年より看護師、医者などの登録制度が導入され、看護師は5年間うちに25単位、医者は30単位集めなければならない単位制度(SKP)も導入された。この資格登録とSKPの制度により、国内医療従事者だけでなく外国人医療従事者の品質を担保しようとしている。2012年のこの改革は、EPA看護師・介護福祉士の帰国後のキャリア選択に少なからず影響を与えている。このような複雑かつ変化が激しい両国、とくにインドネシアの制度や政策の理解に時間をとられた。 2015年度は、イ看護師の日本の病院で看護助手として扱われることに対するアイデンティティショックとその対処についての投稿論文は修正掲載となったので掲載まで持っていく。また、学会発表した内容(正看護師となったときのアイデンティティショックとその対処、インドネシア人候補者の宗教実践にみる位置取り)、をより精緻化し関連雑誌への投稿を進めていく。
|
今後の研究の推進方策 |
国内調査:インドネシア人看護師、介護福祉士は1~4陣(とくに1,2陣)のデータに基づいて、キャリアの選択の現状を分析を進めてきたが、帰国を含めて時間軸に沿った自己再構築過程を継続して追っていく。本研究では、最近来日した6,7陣への聞き取り行い、1,2陣との比較を試みる。また、政府が受け入れ拡大を進めようとする介護福祉士と受入施設への聞き取りを行い、日本での異文化体験の現状と課題を職務と生活の両面から明らかにする。これまでの調査から浮かびあがってきた職場規範の差異(職場の報告システム、同僚とのコミュニケーション等)、宗教の役割や意味について検討する。 インドネシア調査:インドネシア人の日本への移動は、地方から都市への移動の延長線上にあるといえる。経済文化的な豊かさを求めて都市に移動するが、地方から都市への移動、海外への移動などの移動の心理とその背景について探る。ジャカルタにおいて、帰国者に対する聞き取りで、移動の心理を聴く。インドネシア国内の経済事情、医療事情などマクロの動向を検討。 学会発表:異文化間教育学会(2016年6月4~5日)にて「外国人医療人材のプロティアン・キャリア形成 ―研修終了後のマイクロ・メゾ・マクロ要因を中心に―」、異文化コミュニケーション学会(2016年9月17~18日@名古屋外国語大学)「日本とインドネシアの職務規範(仮)」、多文化関係学会(2016年9月30日~10月2日@佐賀大学)「インドネシア人看護学生の国際志向性とその背景(仮)」SIETAR USA Annual Conference「インドネシア人看護師の合格後のアイデンティティのゆらぎと対処(仮)」。 論文:これまでとったデータをもとに、「インドネシア人宗教実践にみる自己再構築(仮)」「制度をいかに異文化間研究に取り組むか?マイクロ、メゾ、マクロ(仮)」を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由は2つある。年度始めの4月16日のインドネシア・バリ出張は、学会申込み期日が前年度であり、当該年度の科研より支出することができなかった。海外での外国人看護師受け入れ状況を把握するためにイギリスでの調査旅費を予算に入れていたが、受入病院担当者の事情がかなわず、断念した。
|
次年度使用額の使用計画 |
インドネシア人帰国者、および、インドネシア医療制度に関わる機関(保健省、インドネシア看護師協会、看護学校、介護福祉士研修機関など)への聞き取りのためジャカルタでの調査(2名x2回)の渡航費およびコーディネーターの謝金。国内学会での発表、および、研究代表者と分担者の会議(国内)出張の交通費として使用する。物品費としてはPC関連費、書籍資料を予定している。
|