研究課題/領域番号 |
15K04036
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉浦 淳吉 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (70311719)
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研究分担者 |
吉川 肇子 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (70214830)
池上 知子 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (90191866)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | ゲーミングシミュレーション / 階層格差 / 葛藤解決 / 格差是正 |
研究実績の概要 |
格差と不平等に関する事例を経済格差だけでなく環境や健康リスクも含めて収集し,その問題構造を検討した。その事例分析から問題構造が類似するゲーミング・シミュレーションの分析を行った。対象としたゲーミングは,Starpower (Shirts, 1969)を改変した階層間移動ゲームとトランプの「大富豪」の活用(杉浦2016)である。 最初に既存のゲーミングのルール設定から,プレーヤ間で階層格差が生じること,およびどのような解決策が提案され選好されたかをゲーム結果から確認した。次にプレーヤのゲーム後の振り返り上で,階層格差による認知・感情評価,解決策に関するルール改変の提案と合意形成へのリーダーシップ,階層格差の原因と対策についての現実問題との対応について,プレーヤのゲーム振り返りの報告から整理した。特に,ルールの熟知度が階層格差の是正に向けた討論におけるリーダーシップ行動の評価に影響を与えること,それが現実の格差問題の是正の課題とも関連していることが示唆された。 以上の結果をもとに,階層格差ゲームの試作版を作成し,階層格差の拡大の有無と階層逆転の機会の有無の2要因を独立変数とする予備実験を128名の学部学生の参加を得て実施した。その結果,格差逆転の機会が有る条件では無い条件と比較し,階層拡大の有無にかかわらず,各プレーヤの平均順位の分散が大きく,与えられたルール設定のもとで格差逆転の機会があったと評価していた。また,格差逆転の機会が無いルールに加え,格差拡大のルールが有ることで,階層間の格差が広がり易く,閉鎖的な社会であるとプレーヤは評価していた。以上から,階層格差の拡大有無と格差是正の機会に関するルール設定は有効であったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1に,本研究課題が採択されたのが年度の途中(10月)であり,できる限り当初の計画の遂行を目指したが,とりわけ現実の格差問題とゲーミングとの対応を考慮する際に格差にかかわる社会的イシューが多岐にわたり,実験の要因設定に関する事例分析を行うのに時間を要したためである。第2に,研究実施にあたり実験計画の詳細を検討する中で,研究分担者である吉川肇子が平成28年度にオーストリアに研究のため滞在する予定の中で,受け入れ先であるフォラルベルク応用科学大学のWilly Kriz教授の協力により,本研究に関する実験の実施の可能性が浮上したことで,実験計画の修正と打合せに時間を要したためである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度(年度途中採択のため半年未満の研究期間)の研究実績から,当初の計画に2つの要素を加えて行うこととした。1つは,格差社会の問題を社会的課題としてみると,主に経済や福祉に関する検討が中心的な課題と見なされがちであるが,環境・健康リスクへの対処における階層格差も大きな課題であり,実験のシナリオにこうした事例を含めて検討する。もう1つは,特に欧州を中心とした難民の問題があり,研究分担者(吉川肇子)がオーストリアに研究滞在することから,グローバルで今日的な課題に対応する研究として実験研究に事例研究によって得られる知見を一層加えながら検討をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施にあたり実験計画の詳細を検討する中で,研究分担者である吉川肇子が平成28年度にオーストリアに研究のため滞在する予定の中で,受け入れ先であるフォラルベルク応用科学大学のWilly Kriz教授の協力により,本研究に関する実験の実施の可能性が浮上したことから,そのための費用を確保することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
オーストリア・フォラルベルク応用科学大学に滞在する研究分担者・吉川肇子および受け入れ先のWilly Kriz教授との本研究に関する研究打合せおよび実験実施にかかる費用(旅費・滞在費等),および実験材料の翻訳・校閲にかかる費用として使用する。
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