研究課題/領域番号 |
15K04036
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉浦 淳吉 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (70311719)
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研究分担者 |
吉川 肇子 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (70214830)
池上 知子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (90191866)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 格差 / ゲーミング / 説得的コミュニケーション / チームワーク |
研究実績の概要 |
本研究は,格差の問題を経済的地位とそれに関連する環境や健康などのリスクととらえ,葛藤と解決のプロセスをゲーミング・シミュレーションで再現し,格差の是正によるリスクの低減を扱ってきた。既存ゲームの「大富豪」および「スターパワー」を応用したゲーミングにより格差拡大と是正の問題をシステム変革動機としてのゲームルールの変更課題として再現し,その教育上の効果を検討してきた。今年度においては,研究を大きく3つのゲーミング研究に展開させた。第1に,前年度に引き続き環境行動を促す説得的コミュニケーションに格差認識を導入し,説得における経済的地位と説得方略との関連について説得納得ゲームを応用した省エネ行動ゲームを完成させた。貧しい立場にコミットしたプレーヤでは,説得する側に立つと個人的利益を重視した説得方略をとること,説得される側に立つと個人利益だけでなく環境配慮の面でも省エネ行動が役立つと理解した方が省エネ行動への意図が高まること等を確認した。第2に,社会的背景を異にする国際比較研究として,格差是正を協力とチームワークによる問題解決と設定し,協力することが個々人に利益をもたらすことを経験する機会を与えることで,立場と利害が異なる人々の間でのチームワークのパフォーマンスが上昇することをオーストリアの大学生132人を対象とした実験,および前年度に行った日本での実験との比較により確認した。第3に,立場や経済的地位の相違を前提とした複数のボードゲームを応用し,ルールや実施の仕方を操作することで,格差の問題認識の程度やその可視化が格差是正行動につながること等を明らかにした。以上の研究における実験は,格差問題の認識と是正に関する理解を深め社会問題の解決を促す教育カリキュラムへ展開しており,その成果は日本教育心理学会のシンポジウムにおいて話題提供と討論が行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「省エネ行動ゲーム」の完成により環境対策と格差の問題の検討が可能で,複数の実践により格差の設定と問題解決の関連を検討することができた。協力行動の重要性を経験的に理解することによる格差状況でのチームワーク向上に関する研究はオーストリアと日本との比較による検討が進んでいる。市販されている海外のボードゲームやカードゲームにおいて格差問題を扱うことを確認し,エンターテイメントを目的としたゲームを体系化して整理し,活用方法を開発することで研究や教育実践に活用可能であることを明らかにしつつある。以上の研究は,国際的な共同研究として展開してきており,広がりをもって着実に進行してきている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は研究の進展により当初の研究計画からみて,格差による葛藤とその解決の問題を考察するにあたり,説得的コミュニケーションやチームワークによるパフォーマンスの向上など,格差という社会問題と既存の分野を連結させる役割を果たしつつある。研究プロジェクトは国際的に展開してきており,それぞれの実験から得られた成果のみならず,ゲーミングを用いた実験パラダイムの体系化に向けて成果をとりまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究領域との連携および国際的共同プロジェクトの推進にともない,実験の準備や実施,実験結果の分析に予定より多くの時間をかけて検討した。そこから実験パラダイムの体系化にさらに時間を要することと,その成果を国際学会で発表するため,研究期間の1年の延長を申請し,認められた。このことにより,前年度に予定していた成果発表等に関する費用を次年度に充当することが可能となったため。
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