研究課題/領域番号 |
15K04037
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
林 洋一郎 慶應義塾大学, 経営管理研究科, 准教授 (70454395)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フレーミング / 制御焦点 / 制御適合 |
研究実績の概要 |
フレーミング効果と制御適合に関する既存研究のレビューを行った。制御適合とは、制御焦点(促進焦点と予防焦点)とフレーミング(ポジティブ・フレーミングとネガティブ・フレーミング)の合致した状態を表す。制御適合が実現すると、職務に対する動機づけが高まる傾向が明らかにされてきた。 リーダーからフォロワーに対する言葉がけ(メッセージ)に関する質的調査が実施された。上司から受けた業務上の指示行動やアドバイスについて,事例や体験を収集した。その際,「①~しなさい」,「②そうすれば(or さもないと)~なるよ(or ならないよ)」,という形式で上司からの指示行動やアドバイスを収集した。九州地方や首都圏のビジネススクールに通う社会人66人から回答を得た。未回答や解釈困難な6人の報告を除き,最終的に60人分の回答(事例)を分析対象とした。心理学を専門とする2人の研究者が,各メッセージを1) メッセージ内容の制御志向(促進or予防),2) フレーミング(ポジティブorネガティブ)というふたつの観点から分類した。分類の一致率は,96.7%であった。さらに制御志向とメッセージ・フレーミングの関連をχ二乗検定した結果、促進焦点メッセージの場合,ポジティブフレーミングが選好され,予防焦点メッセージの場合,ネガティブフレーミングが好まれる傾向が見出された。 さらに、調査 A で得られたメッセージ内容を質問項目とするアンケート調査を実施した。 「悪い結果や事態を避ける」(予防焦点)と「良い結果や事態を実現する」(促進焦点)を双極とするリッカート形式で各質問項目に回答してもらった。その結果、2因子が抽出された。各因子は、予防焦点と促進焦点と解釈された。各因子に含まれるそれぞれの項目が、予防焦点と促進焦点を反映したメッセージであると解釈された。メッセージは、次年度以降の実験研究で用いられる刺激文となる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると思われる。申請書の計画に記載されたスケジュール通りに進んでいると考えられるからである。初めに、組織行動や産業・組織心理学の分野におけるフレーミングと制御適合が個人のモチベーションに与える影響プロセスに関する文献レビューに関して、一定の進展をみた。また実証研究においては、質的研究によって制御適合が確認された。さらに質的な手法で収集したデータに基づきアンケート調査を実施して分析まで終了した。そして因子分析の結果は、当初の予測に合致する形で促進焦点と予防焦点の2因子が抽出された。予定通りの研究が進められただけでなく、ほぼ当初の期待に合致するような結果も得られているので、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実験で使用するメッセージが抽出できたので、促進焦点メッセージと予防焦点メッセージの刺激文を作成する。そしてこれらの刺激文を用いた実験研究を速やかに実施する予定である。 実験は、部下の立場と上司の立場の両方から実施される。部下であれば、メッセージ内容と適合したフレーミングによって言葉がけがなされた場合(促進‐ポジティブ、予防‐ネガティブ)、実験参加者(部下)は、不適合な場合よりも、仕事への意欲,上司の信頼感,組織へのコミットメントを強く示すという仮説を検証する。上司であれば、メッセージ内容と適合したフレーミングを好んで伝達するという仮説である。 どちらの実験も、実験参加者がポジティブとネガティブのどちらのフレーミング選択を行う点において共通である。このフレーミング選択の選好を二値で測定するのか、それともリッカート形式の段階法で測定するかについて連携研究者とも相談して最善の方法を見極めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
・当初、メッセージ内容を質問項目とするアンケートは、業者を通したオンライン調査を予定していたが、これを実施しないで学生を対象とした調査で代用しているため。マルチレベル構造方程式モデリングを行うための専用ソフトウェアを購入する費用を計上したが、初年度はフリーのソフトで代用したため。また、予定していたほど出張する必要がなかった。さらに、調査を実施するためにアルバイトを雇う予定であったが、自分で行ったので計上していたほど使用をしなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
メッセージ内容を質問項目とする調査であるが、社会人を対象としたオンライン調査を実施したいと考えている。また、28年度は国際誌に投稿する原稿を作成するが、実際の投稿にあたっては商用の統計ソフトウェアによって計算結果を確かめる必要がある。そこでspss、AMOS、m-plusといったソフトウェアを購入する予定である。また、28年度は制御適合が働く個人に与える影響を検証するために、社会人を対象とした実験を行う予定である。この実験は、業者を通じてオンラインで実施する予定である。2回にわたるオンラインの実験のために助成金が使用される。さらに今回は、これまで以上の項目を作成して整理する必要があるが、この作業を手伝ってくれた方たちに謝金を支払う。
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