研究課題
「行動免疫(the behavioral immune system)」とは,ヒトが進化の過程で備えるようになった情報処理システムであり,生存や繁殖を脅かす対象への嫌悪感情を生じさせたり,回避行動を起こさせたりする機能を持つとされる.しかしながら「行動免疫」の文化的基盤に関する検討はこれまで十分行われてこなかった.そこで本年度は日本・マレーシア・フィリピンの3カ国で行った国際比較調査のデータを分析した.具体的には計1,142名の大学生に質問紙調査を行い,行動免疫特性,死への恐怖,健康状態,性別の変数間の関連を3カ国で比較した.この結果,以下の点が明らかとなった.1)熱帯地域に位置するマレーシアとフィリピンの学生は日本の学生よりも感染嫌悪(不潔など,病気にかかりやすい状況に対する不快感)傾向が強い.2)国の違いにかかわらず,女性は男性より感染嫌悪傾向が強い.3)易感染性(自分が病気にかかりやすい性質を持つとの自覚)は,これらの傾向が認められなかった.4)感染嫌悪は易感染性よりも死への恐怖と正の相関が強かった.5)易感染性は感染嫌悪より現在の健康状態と負の相関が強かった.4)と5)についてはどの国にも認められる傾向であった.以上の研究結果は,行動免疫傾向の2つの下位因子のうち,感染嫌悪が易感染性よりも進化的な適応として種が獲得してきた性質であり,易感染性はむしろ現在の健康を脅かす脅威に対する反応傾向であることを示唆するものといえる.
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