研究課題/領域番号 |
15K04055
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小林 敬一 静岡大学, 教育学部, 教授 (90313923)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 論争 / 態度 / 対立情報 / 接触効果 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,論争との接触が能力ベースの論争処理を介して心理的効果をもたらすプロセス・モデルに関して,大きく2つの研究を実施した。 1.論争との接触が態度に及ぼす効果を扱った研究のレビュー。公的問題を巡って対立する情報がその公的問題に対する態度に及ぼす効果を調べた研究には,社会的ネットワークの異種混交性が態度変容に及ぼす効果を調べた研究,競合するフレーミング情報の態度形成・変容効果に関する研究,対立情報の提示による態度の極化の3つがある。今回,(ほとんど相互交流のない)これら3つの研究領域を総合し統一的に説明するモデルを提案した。この研究成果は「心理学評論」に投稿し,審査を経て現在,印刷待ちの状態である。 2.論争との接触効果における関係づけ処理の効果。能力ベースの論争処理として関連づけ処理(対立情報を相互に関連づけその関係を理解する処理)に着目し,対立する議論の評価に事前態度が及ぼす影響を関連づけ処理が調整する可能性を検討するために,大学生,一般成人を対象にした計3つの実験(一般成人はオンライン実験)を実施した。実験の結果,関連づけ処理の調整効果を見出すことができた。しかし,同時に,対立情報の関連づけが不十分であったり,対立情報の関係を適切に理解できなかったりすることで,調整効果がうまく発揮されなかった可能性を示唆された。これら実験のうち,大学生を対象にした実験結果は大学紀要に発表した。また,一般成人を対象にした実験結果は現在,海外の雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると判断したのは,次の3つの理由からである。 1.論争との接触が態度に及ぼす効果を扱った研究を,研究領域を超えて総合し,統一的に説明するモデルを提案することができた。 2.平成27年度の研究実施計画に基づき,論争との接触効果における関係づけ処理の効果を調べる実験を,大学生,一般成人を対象として3つ実施し,ある程度,期待した効果を確認することができた。 3.実施計画では,発話思考法を用いて能力ベースの論争処理が心理的効果をもたらす心的過程を詳細に検討する研究も計画していた。しかし,「1」と「2」の研究成果を踏まえて,この研究については現段階での必要性が低く,今後の研究において必要な場合にのみ実施する形で先送りできると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,次の2つの方策を計画している。 1.平成27年度に得られた研究成果に基づき,関連づけ処理の中でも特に対立の認知に着目し,それが論争との接触が及ぼす心理的効果において果たす役割を検討する。具体的には,詳細な実験的研究を大学生を対象に実施し,さらにその研究成果を一般化するために一般成人を対象にしたオンライン実験を実施する。 2.平成27年度実施計画で予定していた,発話思考法を用いた(能力ベースの論争処理が心理的効果をもたらす)心的過程の検討については,平成27年度の研究成果を踏まえて,現段階で実施する必要性が低いことから,当面は先送りし,今後の研究において必要な場合にのみ実施する。
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