研究課題/領域番号 |
15K04062
|
研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
安達 智子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (40318746)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | キャリア選択 / キャリア適応 |
研究実績の概要 |
研究立ち上げの年となる平成27年度は、キャリア選択や適応に関する情報収集と調査の計画・実施が重たる活動となった。 1)キャリア選択やキャリア適応に関する情報収集:国内外においてキャリア選択や若者層の意識、支援についての情報を収集した。とくに、女性の社会参画や管理監督的立場への昇進、それを阻む要因などについて国内外の情報を収集・整理。ここでは個人を単位とした心理学的研究にくわえて、社会、政治、経済などの個人をとりまく環境やその変化、両者の相互作用などについて文献的研究を行った。 2)調査対象とする概念の絞込み:収集した情報をもとに、予備調査の核となる概念を選定した。具体的には、生活時間の配分の理想/現実、ワーク・ファミリーコンフリクト、職務満足感、そしてセルフモニタリングの4変数に絞り込んだ。 3)メンタルヘルス尺度邦訳版の作成:上の4変数にくわえて、国外の研究協力者との共同作業によりメンタルヘルス測定尺度の日本語版を整備して予備調査にくわえることとした。同尺度は、個人的、社会的、情緒的な幸福感という3下位尺度15項目より構成されており、実施の簡便性などから、組織におけるメンタルヘルスチェックのツールとして活用が期待される。 4)上記の2)と3)の測度から構成される質問紙をもちいたWeb調査を計画・実施して600名余の有効回答を得た。 5)予備的成果について国際学会で発表を行い、諸外国の研究者より意見やアドバイスを得た。根強く残る性役割分業観が働く人々のワーク・ライフ・バランスや時間配分に影響を及ぼすと考えられるが、調査対象によってはその影響過程は直接的ではなく媒介概念があるのではないか。国家による提言や政策、それらを組織がどのように取り入れ活用しているのかなど、社会・組織・個人の相互作用を検討する必要がある等の意見が得られ、今後こうした考えを取り入れ検討をすすめることとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)キャリア選択・適応に関わる情報については、昭和初期のものから最新のものまで網羅的に収集することが出来た。また、収集した情報を整理したうえで予備調査を設計・実施して600名余の協力者から回答が得られた。当初予定していたとおり、おおむね順調に進展していると評価することが出来る。 2)測定概念の選定にあたって、当初予定をしていた自己効力のかわりにセルフモニタリングの概念を導入することとした。すなわち、仕事と家庭生活の両立や適応を果たすためには、周囲と調和のとれた関係性や「空気を読む」ことが大切であるが、いわゆる「空気を読みすぎる」「周りに配慮しすぎる」ことは、個人が環境と交渉する機会を奪い、キャリア適応にたいして阻害要因として作用すると考えられたからである。こうした日本人に特有なスタンスについても検討していくことで本研究の意義や位置づけが明確化されたといえる。 3)メンタルヘルス尺度の日本語版を整備したことは、支援や介入について考案する際に必要な指針を得ることとなり、大きな前進であると考えられる。
一方、今後の支援・介入を考案する際に必要となる介入スキルの習得や関連研究者とのネットワーク形成については本年度は十分ではなかった。しかしながら本年度の研究内容とは直接関連せずに、第2期、第3期以降に強く関わりをもつと判断したために、これらの事項については来年度以降への持ち越しを行うこととした。
|
今後の研究の推進方策 |
1)平成27年度に実施た予備調査のデータを分析し、キャリア適応を促す要因や阻害する要因、職務満足感やメンタルヘルスに関わりをもつ要因等について検討を行う。 2)上述の予備調査で得られた結果から、個人のキャリア適応や不適応、ワーク・ライフ・バランスの促進・阻害要因などの推定を行い、因果モデルを構築する。 3)作成した因果モデルを質的データにより裏付け・補強すべく自由記述やインタビューによる調査を実施して、モデルを精錬させる。 4)精錬したモデルや研修やワークショップ等への参加を通じて得た知識やスキルをもとに、キャリア適応に必要な支援・介入について検討を行う。 これらの計画を段階的に遂行するために、平成28年度は、データの分析と介入スキルの習得や実践などの側面に重きをおくこととする。また、平成29年度以降は、量的指標にくわえて、インタビューなどの質的指標からも検討を進めていく予定である。さらに、年度ごとに進捗状況や得られた成果を学会で発表し、他の専門家からの意見や示唆を得ながら研究計画をさらに精錬させていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
英文校閲への人件費・謝金を予定していたが、H27年度はデータ分析の途中であるために、該当分の予算は次年度以降に使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
上に述べたとおり、データ分析が完了してから論文の作成を行い、英文校閲への人件費・謝金を使用する計画である。
|