研究実績の概要 |
本年度は高齢期の意思決定バイアスの特徴を明らかにするために以下の3つの研究を実施するとともに,高齢期の自律支援を目的としたプログラムの開発をおこなった。 1. 後悔に選択の自信及び加齢が及ぼす影響:後悔とは,選択した行動とは別の行動を選択していれば,よりよい結果が得られたことを知ったときに生じるネガティブな感情である(Zeelenberg et al., 1998)。サクセスフルエイジングにおいて高齢期に後悔を抱かないことが重要であることが指摘されている。大学生40名,高齢者40名を対象とした心理実験を実施した結果,数ある選択肢の中から最終的に一つを選択しなければならない状況では,自信や時間制限などの要因は後悔の程度に影響を与えないことが明らかになった。 2. 道徳的ジレンマ状況における人間の判断に人工知能の判断が及ぼす影響:トロッコ問題・歩道橋問題に代表される道徳的ジレンマ状況における人々の判断が人工知能の判断の影響を受けるのかを明らかにすることを目的とした。20歳から79歳までの936名を対象とし検討した結果,トロッコ問題において自分の判断が人工知能の判断の影響を受けることが示された。また,功利主義的な判断を評価する人ほど人工知能の判断の影響を受けやすいという結果が得られた。 3.加齢が損失回避に及ぼす影響:得よりも損失を過大評価してしまい,より損失の小さい選択肢が選ばれる傾向がある。これを損失回避という(Kahneman & Tversky, 1991)。本研究では,加齢が損失回避に及ぼす影響を検討することを目的とした。大学生40名,高齢者40名を対象とした心理実験を実施した結果,損失回避回数に年齢群間の差はみられなかった。また,損失回避と認知機能には関連性がみられず,認知機能の低下が損失回避に影響しないことが示唆された。
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