研究課題
本研究は,青年期におけるアイデンティティの形成プロセスを,他者との相互作用のあり方(ここでは「関係性の観点」と呼ぶ)から解明することを目的とする。具体的には,第1に,アイデンティティ形成が本格化する 10代終わりから20代初めの大学生を対象に,彼らにとって身近で重要な他者である仲間との対話や討論を通して,どのようにアイデンティティが構築されていくのかをリアルタイムで記述し,その機序を明らかにする(研究1)。第2に,青年のアイデンティティ形成において関係性が重要であることが,文化をこえて認められるかどうかも検討する(研究2)。それにより,関係性がアイデンティティ形成の機序を解明する普遍的な観点として機能することを明らかにする。平成27年度の研究実施計画および成果は,以下の通りであった。1.研究1の準備:ダイナミック・システムズ・アプローチ(DSA)の視点を取り入れ,他者との相互作用を通してアイデンティティが構築されるしくみを検討するための理論的枠組みと方法の策定を行った。具体的には,(1) システム全体(関係性の視点から見たアイデンティティ)),(2) 構成要素(コミュニケーションに表れる自己と他者の視点の協応の仕方)の概念的な関係を整理する作業を行った。2.研究1のデータ収集:日本人大学生 12 名を対象に,9週間(約3ヶ月),3名でのグループ・ディスカッションの場を設定し,アイデンティティに関する話題に関する討議(会話)の内容を記録する。話題は,大学生にとって重要な学業,恋愛,将来・進路とした。
3: やや遅れている
最も大きな問題は,今年度の第1の目的であった,研究1の準備(ダイナミック・システムズ・アプローチ (DSA) の視点を取り入れ,他者との相互作用を通してアイデンティティが構築されるしくみを検討するための理論的枠組みと方法の策定)が,当初の想定通り進まなかったことである。申請者はDSAについて,過去10年ほど勉強・研修を重ねて来たが,具体的にアイデンティティの形成機序を明らかにする場合に応用した先行研究が少なく,枠組みを十分に明細化することが思った以上に困難であった。そのため,枠組みが未確定のまま,ひとまずデータ収集を行うこととなった。
引き続き,ダイナミック・システムズ・アプローチ (DSA) の視点を取り入れ,他者との相互作用を通してアイデンティティが構築されるしくみを検討するための理論的枠組みと方法の策定を推進する。その際,すでに研究Ⅰのデータ収集は終了しているので,実際のデータを見ながら,枠組みを検討し,引き続き研究1のデータ分析を行う予定である。
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