研究課題
本研究は,青年期におけるアイデンティティの形成プロセスを,他者との相互作用のあり方(ここでは「関係性の観点」と呼ぶ)から解明することを目的とする。具体的には,第1に,大学生を対象に,彼らにとって身近で重要な他者である仲間との対話や討論を通して ,どのようにアイデンティティが構築されていくのかをリアルタイムで記述し,その機序を明らかにする(研究1)。第2に,青年のアイデンティティ形成において関係性が重要であることが,文化をこえて認められるかどうかも検討する(研究2)。それにより,関係性が,アイデンティティ形成の機序を解明する普遍的な観点として機能することを明らかにする。平成28年度の研究実施計画及び成果は,以下の通りであった。1.研究1のデータ分析:討論期間の最初と最後に査定される関係性については,①アイデンティ ティの領域ごとに,準備段階で策定された評定基準に基づき各対象者のレベルを評定,②事前から事後にかけてのレベル変化に着目して,対象者をレベル上昇,安定,下降群に分類,③上昇群の各対象者に注目して,仲間との間で交わされたコミュニケーション・パターンの変化,パターン間の関連の変化,及び情動の変化との関連を検討,④関係性のレベルの安定群,下降群についても同様の分析を行い,アイデンティティ・システムの変化(あるいは安定)が,いかなるコミュニケー ション・パターンの変化(安定)によって説明されるのかを明らかにする作業を行った。2.関係性を捉える方法の日本版・オランダ版の作成と整備(研究2の準備):研究1で用いた「関係性のレベル 」及び「コミュニケーション・パターン」が,アイデンティティ形成の機序を検討するうえである程度の普遍性 を持つ指標であることを確認するため,同じ方法,カテゴリーを日本人青年とオランダ人青年の両方に適用 するための手法について策定する作業を行った。
3: やや遅れている
研究2の準備において,申請者が開発した関係性のレベルを査定するための面接を日蘭共通に使用するために必要な改変を,オランダの研究者と共同で行う計画であったが,この部分がH28年度に遂行できなかった。H29年度に遂行予定である。
引続き,ダイナミック・システムズ・アプローチ(DSA)の視点を取り入れ,他者との相互作用を通してアイデンティティが構築されるしくみを検討するための分析を継続する。また,H29年度にオランダで開催される学会に出席する際に,遅れている研究2の準備の部分(申請者が開発した関係性のレベルを査定するための面接を日蘭共通に使用するために必要な改変を,オランダの研究者と共同で行う)を遂行予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Asian Journal of Social Psychology
巻: 19 ページ: 362-373
10.1111/ajsp.12154