研究課題/領域番号 |
15K04071
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森田 愛子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (20403909)
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研究分担者 |
草原 和博 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (40294269)
中條 和光 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90197632)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文章読解 / 地図 / 地理的見方・考え方 / 非連続型テキスト / 眼球運動 |
研究実績の概要 |
地理の教科書では,複数の地図と文章が同時に提示されるのだが,児童生徒は,どのようにそれらを読み,統合して理解しているのだろうか。初年度である平成27年度においては,まず,大学生を対象として,眼球運動の測定を実施した。 エキスパートとして,大学受験において地理を選択した大学生8名,非エキスパートとして,そうではない大学生9名が実験に参加した。ディスプレイ上に,架空の国についての地図と文章を呈示し,それを5分間黙読させ,眼球運動を測定した。文章および地図は,地形・年降水量・人口分布・土地利用・地名の情報から成っていた。異なる内容で,その課題を3回繰り返した。 その結果,群間に,主に次の3つの違いがみられた。第1の違いは「地図先行か文章先行か」である。最初の10秒間に,どの部分に視線が入っていたかを調べたところ,エキスパート群は非エキスパート群より,地図を見ている割合が有意に多かった。すなわち,エキスパート群のほうが地図を先行して見る傾向が強いことがわかる。 第2の違いは「地図と文章の見比べ方」である。地図どうし,地図と文章,文章どうしを見比べた割合を平均したところ,エキスパート群は非エキスパート群より地図どうしを見比べる割合が高く,逆に,文章どうしを見比べる割合が低かった(ただし統計的な有意差はない)。 第3の違いは「各地図と段落をどのくらい見ていたかの割合」である。最初の10秒間において,各地図と段落(それぞれ,地形と地名・年降水量・人口分布・土地利用を表す)をどれくらいの割合でみていたかを算出した。 エキスパートは地図を見比べることで理解しようとするが,非エキスパートはそうではないことが推測された。さらに,エキスパートは特に地形の地図を重視するが,非エキスパートは地名を重視することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,児童生徒を対象とし,心理学における文章理解研究の知見と,地理・社会科教育における地図理解,教材開発の知見を融合させた実験を行い,次の点を明らかにすることが目的である。第1は,児童生徒はどのような方略で複数地図と文章を参照しているか。第2は,複数地図と文章の統合的理解を促進するためには,地図をどのように統合して提示するのが最適か。しかし,平成27年度に実施した実験の結果から,大学生であっても,地理の非専門家である場合には,地理的理解に適合した読み方をしていないことが示唆された。したがって,中学生や高校生であれば,当然,適合した読み方はしていないだろう。大学生を対象とし,どのような提示あるいは教示が,適合した読み方を促進するかをまず把握する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度においては,まず大学生を対象とし,地図と文章の呈示方法を操作して実験を行う。これは本来,平成28年度に,児童生徒を対象として行う予定であった実験であり,その対象範囲を大学生まで広げるという変更になる。それにより,複数地図と文章の統合的理解を促すためには,地図をどのように統合して提示するのが最適であるかを解明する。大学生を対象とした実験を実施した後,対象学年を下げ,高校生,中学生,小学生を対象とした同様の実験を,予定どおり実施する。
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