研究課題/領域番号 |
15K04099
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研究機関 | 九州ルーテル学院大学 |
研究代表者 |
久崎 孝浩 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (70412757)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乳児 / 自己覚知 / 強化学習 / 親子関係 / 感情鏡映 / 他者情動の理解 / 心の理論 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,乳児の表情変化に対する自己覚知のしやすさを測定する方法の開発に取り組んだが,その方法の試験的調査には至らなかった。しかし,プログラム完成の目処はついている。乳児の表情変化(顔の口や目の開閉)に随伴してタッチスクリーン上に手がかり刺激が提示され,それが点滅している間に乳児が触れると強化刺激が出現するというプログラムである。自分の体の動きに気づいているかを確認する課題としては鏡像課題(Gallup, 1970)や自己の運動を遅延提示する課題(Rochat & Morgan, 1995),また自分が原因になっていることに気づけるかを確認する課題として自分が重石になって動かせないカートをどうするかをみる課題(Moore et al.,2007)がある。これらの課題は6ヶ月未満児あるいは18ヶ月齢周辺の課題である。しかし近年,12ヶ月児に適用できる自己覚知課題としてWatson et al.(2011)が,表情(情動表出)変化に気づいているかを確認する課題を開発した。ただし,彼ら以外の研究者はこれを追試・報告していない。また,乳児の表情や情動表出に対する母親の感情鏡映的関わりが乳児の自己覚知を発達させるという本研究の仮説において,この課題は表情に対する乳児の自己覚知を直接測定できる重要な測度となる。 平成28年度では,昨年度内に達成できなかった,測定プログラムによる試験的調査を実施する予定である。その調査で,1歳の乳児であれば何試行目で手がかり刺激にタッチするという正解反応を示すのかを確認して,条件の設定を調整する。また,乳児と母親のペアの参加を募り,母子のやりとりを観察して母親の感情鏡映的関わりを測定するとともに,子どもに測定プログラムを適用して表情に対する自己覚知のしやすさを計測することで,本研究の仮説の一部を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プログラムの作成に時間がかかった。本研究ではプログラム作成においてMatLabとPsychtoolboxを用いたが,プログラムに誤作動が生じて原因を特定したり修正したりして,予定以上に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
表情に対する乳児の自己覚知を測定するためのプログラムは完成の目処が立ち,今後はタッチスクリーンを購入して乳児実験調査用に実装して試験的な調査を進める予定である。その際に参加者である1歳前後の乳児の募集については,保育所あるいは育児サークルが開催されている公民館で保護者同伴での参加を募ることで調査を遂行する。また,交付申請書内の研究実施計画においては参加者10名としたが,傾向を把握してプログラムの条件設定を調整するためには10名では少なくもっと多くの参加者からデータを得る必要がある。 また,本研究では,12ヶ月時,14ヶ月時,18ヶ月時と3時点で乳児とその保護者は異なる内容の調査・実験に参加するため,乳児・保護者ペアとの間で信頼できる参加契約を取り結ぶことに留意する必要がある。どの参加時点においても同一の調査場所・スタッフのもとで調査を実施し,乳児だけでなく保護者にも安心感を与えるように配慮する必要がある。 さらに,12ヶ月時点での母子のやりとりの観察・測定においては,乳児と母親双方の表情のやりとりを分析するため,乳児に対する映像と母親に対する映像を同期させて録画する必要がある。そのためのAV装置を事前に準備しておくことも今後の研究を進めていくうえで重要なことである。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度においては,乳児自身の表情変化に対する自己覚知のしやすさを測定するためのプログラムの作成途中で,プログラムに誤作動が生じて原因を特定したり修正したりして予定以上に時間を要した。そのため,その測定の試験的調査にまで到達せず,その調査で必要なタッチスクリーンを購入する機会、また調査に参加する乳児と保護者に対する謝礼を支払う機会がなかった。また,試験的調査で得られたデータをまとめて国内学会で発表する予定であったが,その機会もなかったため旅費の使用もなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度においては,測定プログラムによる調査を実施する予定である。調査では,物品費からタッチスクリーン,録画用のビデオカメラ,2台以上のカメラを同期させて録画するための装置などを購入して,乳児の自己覚知と母子間の相互作用に関するデータを収集する。また,調査では2名程度のスタッフを募集して調査を補助いただく予定であるため,そのスタッフへの謝金を人件費・謝金から賄う。乳児・保護者ペアである調査参加者については,予定より参加者を多く募って調査に協力いただいて参加者に謝金を支払う予定である。そのため,スタッフへの謝金も合わせた謝金予定総額は28年度の人件費・謝金請求額を超えるかもしれない。その場合の不足分は次年度使用額で補いたい。さらに,28年度では収集したデータを年度末の日本発達心理学会で発表したり,国際学会の発表にエントリーしたりしたいと考えており,それに対して旅費を使用する予定である。
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