研究課題/領域番号 |
15K04099
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研究機関 | 九州ルーテル学院大学 |
研究代表者 |
久崎 孝浩 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (70412757)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歩行開始期 / 自己覚知 / 強化学習 / 親の感情的鏡映 / 他者感情の推測 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,生後10~14ヶ月の乳児に対する自己感受性の計測を引き続き行ったが,結果的には分析可能なデータを収集するには至らなかった。課題内容は,乳児が口を動かすと,タッチスクリーン上の左右のどちらかの帽子が点滅し,点滅中の帽子に乳児自身が触れると帽子から動物が飛び出すというものである。昨年度の反省より,様々な動物が出てくるように設定し,帽子も乳児がタッチしやすいように大きく表示をした。この測定課題から,乳児が自分の口の動きによって帽子が点滅をして動物を出現させることができることに気づくようになるのかを把握するのであるが,乳児が積極的に口を動かそうとする様子は殆ど見られなかった。一方,スクリーン上中央の女性が口を開くと帽子が点滅してそこに触れると動物が出てくるという条件では,多くの乳児が帽子を触ろうとする傾向がみられたが,点滅中に触るのは難しいようであった。こうした乳児の反応から,①スクリーン上の適切な場所とタイミングで触ることは乳児には難しいこと,②「乳児の開口―帽子点滅」の連合と「帽子点滅へのタッチ―動物出現」の連合の2つを学習することが乳児には困難であること,③乳児はスクリーンに興味をもつほどに口を動かさなくなること,が理由で有効データを収集できなかったと考える。 29年度の計画では,上記の計測による自己感受性のほかに,乳児と母親のやりとりの中で見られる母親の感情鏡映的関わりを計測したり,生後18ヶ月になって再び他者欲求理解(自己と他者では欲求・好みが異なることの理解)の課題を実施したりして,「母親の感情鏡映的関わり→自己感受性の高さ→(自己の状態を通して他者の状態を理解することを繰り返し経験して)他者欲求の理解しやすさ」という因果関係を想定した分析を行う予定であった。しかし,乳児の自己感受性のデータを収集できなかったため,18ヶ月時点の調査も実行しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
自己感受性の計測において分析可能なデータが得られていない。その理由を考慮し,現在までに,乳児の口の動きを誘発するためにスクリーン上の女性の口がランダムなタイミングで動くというプログラムを作成し,今後検討する予定である。そのほかに,乳児と母親のやりとりの中で見られる母親の感情鏡映的関わりを計測したり,生後18ヶ月になって再び他者欲求理解(自己と他者では欲求・好みが異なることの理解)の課題を実施したりすることも予定であったが,自己感受性の分析可能なデータがなければ母親の関わり方や18ヶ月時の欲求理解との関連も検討できないため,計測・実施には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
自己感受性の計測で分析可能なデータを得ることが今後の研究推進において最も重要なことである。分析可能なデータを得るために,乳児の口の動きを誘発する刺激をプログラムに組み込み,画面上の帽子を大きくしてタッチしやすくして,点滅中の帽子をタッチすると動物が出てくることを十分に学習させて上で本番課題を遂行する予定である。また,参加協力者である乳児とその保護者を広く募集するために,地域の幼稚園・保育所や公民館などに募集チラシを配布・設置する予定である。また,参加協力者の月齢を少し引き上げて1歳~1歳半とし,少しでも分析可能なデータが収集できるよう努めたい。 また,18ヶ月時点での他者欲求理解課題については未だに遂行されていないが,遂行する際には,実施対象月齢を18ヶ月から24ヶ月に引き上げて実施したい。なぜなら,以前実施した調査において生後18ヶ月の子どもではオリジナルのRepacholi & Gopnik (1997) の結果のように,欲求や好みにおいて自他で異なることの理解を示すような反応が殆ど見られなかったからである。社会的に個の自立が早期から求められる文化においては心に関する自他分化的理解の発達が早まると言われていることを考えると,実施対象月齢を予定より引き上げることは好結果を生み出すことにつながると思われる。また,昨年度の同報告書でも述べたが,他者欲求理解の課題では食べ物を使用する2条件とオモチャを使用する2条件を予定していたが,食べ物の使用は倫理的・衛生的問題が生じる可能性が高いため取り止めて,食べ物をオモチャに替えて実施することにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度では分析可能なデータを集積できず,国内外で発表する機会がなかったため旅費の使用がなかった。 使用計画:平成30年度では,まず自己感受性の測定において分析可能なデータを確実に収集し,そのための工夫を徹底して行う予定である。さらに年明けからは自己感受性測定に協力した同じ子どもに他者欲求理解課題を実施する予定である。それに伴い,スタッフへの謝礼支払いや参加協力者への謝礼として渡す物品を購入する予定である。また,平成30年度では,集積したデータの分析結果を日本発達心理学会で発表することや,国際学会での発表にエントリーすることを考えており,その発表のための移動や宿泊のために旅費を使用する計画を立てている。
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