本年度は,研究全体の最終年度であり,実験によるデータ収集と成果発表を行った。第1に小学校5年生を対象にした読書中の眼球運動測定実験を行った。実験は,前年度に行った縦書きと横書きにおける周辺視野の広さを推定する課題であり,眼球運動測定にもとづいて画面の提示をリアルタイムで変化させる方法を取った。文章読解の材料は,小学生向けに書かれたものを用いた。これに加えて,本年度の実験では,縦書きと横書きの文章を読む際の基礎データ(停留時間とサッカード距離の代表値と分布)の取得も行った。これらの結果及び前年度の実験結果をあわせて,日本語文章の読解時の周辺視野処理に関する発達的変化の一端を明らかにできると予想している。第2に,上記の実験と並行して,読書中の眼球運動と絵画鑑賞中の眼球運動データを収集し,眼球運動データのみからどちらの課題を遂行しているかをサポートベクターマシーンによる推定を試みた。眼球運動データは,停留の時間やそのばらつきを扱い,サッカードの方向,長さとそれらのばらつきを特徴量として扱った。Leave-one-out方による交差検証の結果,被験者数が少ない状況では,90%以上という高い精度で予測できることがわかった。この他,前年度までに行った実験の知見の成果を国際学会と国内研究会で発表し,日本語文章読解時の中心視野と周辺視野の処理について議論を行った。現在,学会発表等で得られた議論にもとづいて国内学術誌,国際学術誌へ投稿する論文を執筆中である。
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