本研究課題は、一般地域住民を対象とした「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の一貫として、知能の加齢変化に対するAPOE遺伝子と心理社会的要因の交互作用を検討し、遺伝的なリスクを有していても知的な能力を高く維持するための心理社会的方策を明らかにすることを目的としている。平成30年度には、以下の研究を進めた。 (1)解析:前年度までに構築した知能の加齢変化に関する15年間の縦断データベースを用いて以下の解析を行った。①これまでに行ったWAIS-R-SFの各下位検査得点を目的変数とした解析に加えて、認知機能障害のスクリーニング検査であるMMSE得点を目的変数として、APOE遺伝子型がその縦断変化に及ぼす影響について検討した(MMSEデータを入手可能な60歳以上を対象とした)。その結果、APOE遺伝子型、ベースラインの年齢、経過年数の交互作用が有意であり、APOE遺伝子ε4を保有している場合、70歳以降にMMSE得点が顕著に低下することが示された。②前年度までに、知能の加齢変化との有意な関連が見出されている心理社会的要因が、知能低下の遺伝的なリスクを緩衝する要因となり得るかを検討するために、APOE遺伝子型、心理社会的候補要因と追跡年数の交互作用の効果を検討した。その結果、主効果を示す要因、すなわち、APOE遺伝子ε4の有無に関わらず知能の水準と関連する要因は見出されたが、APOE遺伝子ε4の保有者が知能を高く維持するための要因は抽出されなかった。一方、教育歴についてはその交互作用が有意であり、高教育歴かつAPOE遺伝子ε4を有する場合にMMSE得点の低下が最も顕著であった。(2)研究発表:上記の研究結果の一部に関して、学会発表を行い、論文執筆を行った。
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