研究課題/領域番号 |
15K04113
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
南谷 則子 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任研究員 (20729313)
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研究分担者 |
松本 有貴 徳島文理大学, 人間生活学部, 教授 (90580887)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 認知行動療法 / 不登校 / 保護者支援 / コミュニティ / グループワーク |
研究実績の概要 |
不登校の思春期の子どもを抱える保護者に対して、保護者自身のメンタルヘルスの向上と生活の質(QOL)を高めることを目的として認知行動療法を用いたプログラムの構築をはかり、グループ支援を行う。より広範囲でコミュニティに根差した実践を行うために、ファシリテーターの養成を前提として行っている。 昨年度同様に今年度も夏から秋にかけ、千葉大学柏の葉キャンパス地区にてファシリテーター養成講座を全2回実施した。養成後に認定されたファシリテーターには、本研究において作成した保護者支援プログラムの効果検証のための実践だけではなく、コミュニティの中で有効な地域資源として、保護者のネットワークづくりを担う活躍を期待している。その一つの試みとして震災後急激に不登校児童・生徒が増加している熊本県において、現地のNPO法人と協同連携し、ファシリテーター養成講座を開いた。また首都圏内の地域において、地域総合病院の精神科のコメディカルに対し、ファシリテーター養成講座を実施した。講座後、実際に保護者支援プログラムの実施を行い、不登校の背後に精神的な疾患がある子どもを抱えた保護者を対象としたプログラム効果を測っている。 継続して研究代表者所属機関において養成しているファシリテーターによるプログラム実践については、昨年度中の千葉大学亥鼻キャンパスでの実践に合わせ今年度は柏の葉キャンパスにおいても行った。さらに今年度は、ファシリテーター自身の自主性を高め、よりコミュニティに密着した活動へと変化させて行くために、キャンパス内から離れ、印西市や市川市での地域密着の公民館を利用し保護者支援プログラムを展開した。全ての実践に対しては、研究者が現地に赴く形でのスーパービジョンを行い、支援している。現在、研究者単独でのプログラム展開とファシリテーター数名が協力し行った形式での実践との効果を比較する予定でもデータを集めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
〈思春期の不登校の子どもを抱える保護者に対し、認知行動療法に基づく親支援プログラムを実施できるファシリテーターの養成をはかる〉 昨年度同様に、柏の葉キャンパス地区において、ファシリテーターにふさわしいと思われる人材、具体的にはスクールカウンセラー、教育相談員、養護教諭などに対して、チラシを配布し、情報提供と講座案内を行った。日本認知療法学会、キャリア研究会、SEL研究会などでの発表を活発に行い、研究成果を広め、社会的貢献に努めた。教育行政機関との連携により、現在も広く募集を行って講座を開いている。今までの参加者に対しても情報提供を続けている。 これまで68名のファシリテーターを輩出している。全ての参加者が保護者支援プログラムを行うことに対して協力を申し出てくれるわけではなく、講座の受講だけで終わるケースも多いが、現在の職務にも役立ち、親支援に有効であるというコメントが多い。また、プログラムに対する忠実度の維持、実践内容の質の維持の面だけではなく、ファシリテーターが安心してプログラムを実践できるように心理的に支えるためにも、ファシリテーターが行うプログラム実践時には、毎回講座前後の現場での、研究者によるスーパービジョンを行っている。そのため、同時期にひとつのプログラム展開しかできない状況である。当初予定していた、RCT(ランダム化対照試験)の研究デザインでの効果検証を行うには、比較対照できるだけの保護者の数を集めるためにも何度もプログラムを行う必要があり、研究進捗上の問題となっている。 加えてファシリテーター養成講座の実施の場を地方へ広げ、親支援プログラムの実施を大学キャンパス内から地域公民館での実践へと活動の場を広げたこともあり、日程調整と参加者募集が課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
<ファシリテーターが認知行動療法に基づく親支援プログラムを実施し、プログラムの効果検証を行う> ファシリテーターが自らのコミュニティの場で地域資源として有効に活躍できる認知行動療法のスキルの身につけてもらうために、ファシリテーター養成講座の質も検討しながら進めている。養成講座の実施前後において、カウンセリングスキルの上達チェックシートやプログラム内容へのアンケートを記入してもらい、ファシリテーター養成講座そのものへの評価も行った。この結果については分析した後、国内外学会の場での発表は決定しており、論文としてまとめることも予定している。また地域のコミュニティに根差した活動を進めるために、今年度研究代表者が関わっている認知行動療法の普及を組織の目的としているNPO法人と連携し、不登校支援を標題とする講座開催時毎に、継続して人材の募集を募ることになっている。と同時に、全国規模でのファシリテーター養成を視野に入れ、さらに不登校の子どもや親を支えるNPO法人、中部、関西圏の大学などの教育機関との連携など、具体的な実践計画も立てている。 養成したファシリテーターは市内の養護教諭や市内採用のスクールカウンセラーとして働いているなど、既に以前より地域での重要な役割を担っていた人材が多い。さらにプログラム実践を通し、保護者と新たなつながりやネットワークの構築が出来ている。ファシリテーターが行うプログラム実践の場を地域総合病院にも広げ、昨年度不登校の背後に重篤な精神的な不調がある子どもの保護者も含めることが出来た。また、教育系大学の相談所においても、主に相談に訪れた保護者に向けたプログラムの実践が予定されている。一つ一つ異なる実践の場でデータを蓄積していくことによって、どのような場所で、どのような立場のファシリテーターによってプログラムが実践されることが効果的であるのか、分析し検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の経費については超過したうえで有用したが、昨年度の経費の残りがあったため、次年度使用額が生じた。ファシリテーター養成講座の実施や養成したファシリテーターが行う保護者支援プログラムにかかる経費(研究者の講座会場までの旅費や会場費、研究者やファシリテーターの交通費、ファシリテーターに対する謝金)は増加しつつある。これは研究者の所属機関である大学周辺を拠点として、順次拡大させ距離的に離れた場所へと延ばしていく方法を取っていること、養成後のファシリテーターが支援プログラムをそれぞれがコミュニティで実施していくことにより、研究年度の進行に伴い、費用が増えていくためである。 また、昨年度予定していたファシリテーター用マニュアルの製本の経費は、参考資料の部分や解説において、新しい知見を取り入れ、より詳細で的確なものへとさらに改定を加えたい意向があるために、今年度においてもまだ未使用となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、ファシリテーター養成講座の開催を中部(愛知など)、関西圏(神戸や和歌山など)に広げることや教育大学の相談センターでの保護者支援プログラムの実施も予定されている。すべての実践に対しスーパービジョンを行いたいと考え、その方法を検討している。ファシリテーター養成講座の実施期間に会場に移動、滞在することと、プログラム実施時に随時研究者が現地に赴くための旅費を経費として使用する予定となっている。 また、国際的貢献として、7月に開催されるマンチェスター(英国)のInternational School Psychology Association(ISPA)にて、保護者支援プログラムのメンタルヘルスや生活の質(QOL)に与える効果とファシリテーター養成のカウンセリングスキル向上に対する効果ついて、口頭発表およびポスター発表を行うことが決定しており、その旅費や学会費を計上することとしている。
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