研究課題/領域番号 |
15K04114
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
羽間 京子 千葉大学, 教育学部, 教授 (60323383)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 覚醒剤 / 動機付け / 保護観察 / 再犯防止 |
研究実績の概要 |
本研究の,本年度の研究結果は,以下の5点にまとめられる。 1.我々研究チームは,法務省保護局の承諾を受けて,平成19年と平成21年に保護観察を開始した,覚醒剤事犯の仮釈放者約2,000人の属性と,保護観察開始後5年間の再犯による受刑の情報を収集した。これらのデータを分析した結果,動機付けの高さの指標である任意の簡易検査を受けていることが,再犯を抑制する要因であることを明らかにし,研究成果の一部を国内外の学会で発表した。 2.上記1に加え,さらにより長期間の再犯調査を行うために,平成27年度において,平成15年に保護観察が開始された覚醒剤事犯者(仮釈放者と保護観察執行猶予者)約5,900人の情報を収集し,10年間の再犯受刑を追跡調査した。本年度は,このデータの分析を行い,研究成果の論文化を進めた。 3.平成28年度に引き続き,法務省保護観察所長の許可を得,かつ,犯罪臨床の実務家等の協力を得て,保護観察所の処遇プログラムを受講した覚醒剤事犯の保護観察対象者について,複数の事例研究を行った。具体的には,同プログラムの5つのセッションごとに,動機づけの評定を実施した。 4.法務省保護観察所長の協力を得て,覚醒剤事犯者の保護観察対象者の自己効力感や動機づけを測定する質問紙調査を行い,56人分の情報を得て,分析した。 5.平成28年度に覚醒剤事犯者の保護観察処遇における関係機関との連携上の留意点を明らかにするために,医療・福祉関係者への面接調査を行い,本年度,研究成果を論文化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,覚醒剤事犯者の再犯を減少させうる保護観察所の処遇プログラム内外の要因を明らかにし,再犯予防に向けた保護観察処遇の留意事項を明らかにすることを目的としている。そのために,法務省保護局の承諾及び保護観察所長の協力を得て,(a) 保護観察を受けた覚醒剤事犯者の再犯調査,(b) 覚醒剤事犯者の動機づけの程度に着目した事例研究,(c) 処遇プログラム受講前後での,受講者の自己効力感や動機づけの変化に関する質問紙調査,ならびに,(d) 保護観察処遇における,関係機関との連携上の留意点を明らかにするための面接調査を行うこととしている。 我々研究チームは,平成27年度までに,法務省保護局の承諾を受けて,平成19年と平成21年に保護観察を開始した覚醒剤事犯者約9,000人の属性と,保護観察開始後5年間の再犯受刑の情報を収集した。平成27年度は,これらのデータのうち,保護観察付執行猶予者を抽出して分析した。平成28年度に引き続き,平成29年度は,仮釈放者についての分析を行った。その結果,いずれも,任意の簡易薬物検出検査を受検していることが,再犯率を抑制する要因であることを明らかにし,研究成果の一部を国内外の学会にて発表した。また,平成15年に保護観察が開始された覚醒剤事犯者約5,900人の10年間の再犯調査を追加実施し,分析中である。さらに,前年度に引き続き,動機づけの評定を行う事例研究を実施した。本研究全体を通した対象事例件数は30事例以上を想定していたが,本年度末までに27事例の研究を行った。加えて,医療・福祉関係機関職員に面接調査を行い,これら機関との連携上の留意点を明らかにし,研究成果の一部を論文化した。したがって,現在までの達成度は,「②当初の計画通りに進展している」と言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,次の4点を計画している。 1.平成19年と平成21年に保護観察を開始した,覚醒剤事犯の仮釈放者の再犯に影響を及ぼす要因に関する分析結果を論文化する。加えて,法務省保護局の許可を得て,平成24年に改正された新しいプログラムを受講した仮釈放者のデータを収集し,分析に着手する。 2.平成15年に保護観察を開始した覚醒剤事犯者に関して,保護観察対象者の種別(仮釈放者と保護観察付執行猶予者)や性別などによってサブグループに分けた比較などの分析を継続し,論文化していく。 3.犯罪臨床の複数の実務家の参加を得て,覚醒剤事犯者の動機づけの程度に着目した事例研究を継続し,さらに,事例研究の対象となった覚醒剤事犯者の再犯状況についての情報も収集していく。これらのデータを踏まえ,動機づけの程度と再犯率の関連について,分析を加える。さらに,動機づけの評定尺度の精緻化を目指す。 4.保護観察の専門的処遇プログラムの前後における,自己効力感や動機づけの変化を測定するための質問紙調査結果の分析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画どおりにデータ収集が進んでおり,研究代表者・連携研究者・研究協力者の打ち合わせにかかる費用が計画よりも低く抑えられた。次年度は,当初計画の通り,研究費を,研究の深化を図るための関連図書購入や研究遂行に必要な消耗品の購入(物品費),研究資料の整理のための謝金ならび論文化の英文校正代(人件費・謝金),事例研究実施にかかる会議室借り上げ料や旅費,成果発表旅費として支出する。
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