我が国では、犯罪者の再犯対策が強く求められており、特に再犯率が高い覚醒剤事犯者(自己使用)に対する保護観察処遇の充実は急務である。欧米諸国では、薬物事犯者のプログラムの効果について、再使用や再犯の有無を踏まえた検証研究が行われてきている。しかし、欧米と比べ、我が国では、覚醒剤事犯者の保護観察処遇の効果を、長期にわたる再犯の有無によって測定した研究はなされていない。 本研究は、覚醒剤事犯者の再犯を減少させうる処遇プログラム内外の要因を明らかにし、再犯予防に向けたより実効性ある、保護観察処遇の留意事項を明らかにすることを目的とした。 法務省保護局の承諾及び保護観察所長の協力を得て、(a) 保護観察を受けた覚醒剤事犯者の再犯データの分析、(b) 覚せい剤事犯者処遇プログラム場面での受講者の動機づけの程度に着目した事例研究、(c) 同処遇プログラム受講前後での、受講者の自己効力感や動機づけの変化に関する質問紙調査を行った。さらに、(d) 保護観察処遇における、関係機関との連携上の留意点を明らかにするための面接調査を実施した。 (a) の再犯データの分析の結果、保護観察付執行猶予者と仮釈放者のいずれについても,任意の簡易薬物検出検査を受検していること、すなわち、行動として現れる動機づけが、再犯を抑制する要因であることを明らかにした。(b) の事例研究の結果、言語面に着目して評定した動機づけではなく、行動面に着目して評定した動機づけが、再犯の抑制と有意に関連することを見出した。他方、(c) の質問紙調査の結果からは、受講者の自己評定による動機づけは再犯と有意な関連がみられなかった。以上から、受講者の語りや自己認識ではなく、行動面に現れる動機づけが再犯の抑制と関連することが明らかとなった。さらに、(d) の面接調査を通し、保護観察処遇における関係機関との連携上の留意点を、具体的に論じた。
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