研究課題/領域番号 |
15K04120
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
廣瀬 幸市 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10351256)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教育相談 / 世代間伝達 / 自己成長 / ナラティヴ / 臨床物語論 / ライフヒストリー法 / 臨床の知 |
研究実績の概要 |
コンピュータにアシストしてされた質的データ分析においても、コーディングの作業だけは研究者の持つ暗黙知に依存しており、マニュアル化することができない研究の勘所であることを、論文にまとめてますます確信した。ライフヒストリー研究の進展をフランスから発信することを目指していた研究者グループからタイミング良く招待を受け(Colloque International Les sciences humaines et sociales a l'epreuve du terrain)、研究方法論の形式的整備に止まらずインタヴュー実践の現場における実践知の質的差異がデータに影響をもたらすことを、本研究の成果を踏まえて発表した。その内容は研究者仲間に好評に受け止められ、彼らの研究成果にまとめられることになった。 この研究発表の為の準備を通して、ヨーロッパにおけるパーソナル・ナラティヴの研究の系譜(長谷川,2018)に合流することとなり、研究資料形式が分析方法へもたらす規定性の問題(藤井,2016)に意識が拓かれた。それは我が国の社会学領域における対話的構築主義に見られるような、ライフストーリー・インタヴューの理論的検討につながる問題意識(桜井・石川,2015)となった。 このことにより、インタヴュー調査によって得られる質的データの分析において、取り扱える質的内容と、その質的データだけからは必ずしも掬えない質的内容があることを整理して意識化することができた。これによりインタヴュー経験からもたらされる聴き手の自己変容に触れていく際の質的内容の取り扱いに対する到達地点がようやく明瞭になった、と言える。 また、研究Ⅰに関する成果に基づいた内容について、他大学の臨床ナラティヴ・アプローチに関する講義科目において、教育相談に関するゲスト・ティーチャーを依頼されるという派生的展開もあったことは特筆に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの研究成果による理解に呼応するように、フランスからの研究仲間の招待に応じることになり、本研究での成果に基づいて、研究方法論の形式的整備に傾注するだけでなく、インタヴュー調査が行われる現場性において研究素材の質の良し悪しが左右されるという臨床性が肝要であることを発表し、フランス語圏の研究者の共感を得ることができた。 そのことによって、本研究自体の視座が学校教育現場における教育相談活動の実践知の伝達方法の良し悪しを一元的に議論するレベルに止まらず、暗黙の実践知を研究するに際して肝要な留意点にまで視野が高められたと言うことができる。 これに伴い、インタヴュアーの自己変容あるいは自己成長という質的な内容を取り扱う視点を改めて意識することができるようになり、インタヴュー調査に臨む姿勢を自覚した上で、相互作用を読み込んで分析を進めていく必要があることを、全調査を完了してしまう前に把握することができた。研究Ⅰでインタヴューアーとなった研究協力者2の関わりを織り込む視点を盛り込むことができるという点で、研究Ⅱへの進展に添った展開となっている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度のフランスの国際コロックでの研究発表の内容を、ライフヒストリーを研究課題の中心とする国際雑誌(Revista Brasileira de Pesquisa (Auto)Biograica)に寄稿することにする。このことで、教育実践者が世代間伝達において抱えている課題を質的研究により紹介するという一事例的な例示に止まらず、我が国の教育領域、とりわけ教育相談の研究領域における質的研究として議論される水準を示すことを目指したい。 その上で、本研究の最終年度として、研究Ⅱのインタヴュー調査及び分析を昨年度以上に本格化して、ベテラン教諭にインタヴューした経験がインタヴュアー各人の個人的経験と如何に相互作用し合い、自己形成的に溶け合って、どのような形で各人のライフヒストリーとして化合して沈殿しているのかについて、臨床心理的にアクティヴ・リスニングを試みたい。そのインタヴュー自体が、対話的構築主義に関する理論的検討を通過した方法論として、世代間伝達を受ける側の自己変容の経験を聴取する視座を示すものとなるだろう。 この海外論文の内容を著作権に配慮しながら、自らのHP等を利用して公表の方向性で検討していくことにして、なかなか既存の学会を越えて議論することのなかった交流の場を設けていくことにしたい。今後、学会毎の枠組みを越えたところで研究者および実践者のために議論の機会を構想していくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画から研究Ⅱに移行しつつある間も研究Ⅰを並行させることに計画変更していたが、昨年度の研究成果から生まれた観点から、さらに研究方法論に関する疑問が展開して、国際的研究へとつながっていった。このことで、研究Ⅰでインタヴュー調査を行った研究協力者2へのインタヴュー調査を重ねる研究Ⅱを本格化する時期が大幅にずれ込んでしまい、研究協力者2でインタヴュー調査に応じてくれる者に謝金を支払う予定も繰り延べる必要性が生じた。しかし次年度は最終年度に当たることから、研究Ⅱを中心に研究を進めることにしており、昨年度に計画していた分も併せて執行することができるものと思われる。 また、本研究の研究成果を公表する為に、当初は国内研究論文などによる形態を主として計画していたが、海外雑誌に寄稿することになった展開から、この内容を広告するための方途を著作権との関係にも配慮しながら検討していくことにしたい。これに伴い、当初は予定していなかった研究発表のためのHP制作費を新たに設けることにする。 これらにより最終年度の予算執行においても、妥当な使用計画になるものと考えられる。
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