研究Ⅱが無事に完了し、ベテラン教諭に教育相談についてインタヴューした経験がどのような形で各人のライフストーリーとして語られてくるのか、臨床ナラティヴ・アプローチを通して聴取するという、本研究の全体を見通すことがようやくできるようになった。学校教育相談の接触面を研究シーンに設定したにも関わらず、研究Ⅰ及び研究Ⅱのインタビュイーから語られた内容の中に出て来た問題が本研究に通底した影響を及ぼしており、この点を度外視して世代間伝達を促進していくことが困難であることを理解することになった。このような構造的問題点は、当初意図していなかったが、比較的中期となった本研究を通して、研究協力者と深く親交を深めた結果、獲得することになったレベルの知見である。このことから、本研究は図らずもアクション・リサーチになっていると言える。 また、研究協力者ではないが、同様の状況にいる後進教員と共著で「社会変化に伴う現代青年の特徴に関する一考察」を執筆したが、これは学校教育現場で近年進行している現象を扱ったもので、教育相談に携わる相談担当教員が予め知っておくべき視点を論じたものである。このように現場から発信しようとする教員とコラボレーションしていくことが今後の研究推進において大切であると考えられる。 「成人教育におけるライフストーリー」叢書として、日本におけるライフストーリー成人教育の発展を検証しながら、そのライフストーリー研究の現状を考察するという、日仏ライフヒストリー国際研究会議の12年来続いてきた研究は、フランスの文化的生活が機能回復していないことで、現在は棚上げとなっている。代わりに同叢書より出版された≪Chronique du vecu d'une pandemie planetaire≫に寄稿することにより、世界の中でライフストーリー研究を進めていくことについて新たな視点を獲得することができた。
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