研究課題/領域番号 |
15K04124
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野坂 祐子 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20379324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 性暴力 / グッドライフアプローチ / トラウマインフォームドケア / 児童福祉 |
研究実績の概要 |
近年、性虐待や性犯罪など性暴力の問題は、児童虐待の防止等に関する法律の改正や犯罪被害者等基本法の制定などの社会的な動きを背景に、一般社会の関心が高まっている。性虐待等を受けた児童の保護件数や性犯罪被害の認知件数、性的トラウマに関する実態調査等から、その実態と深刻さが明らかになってきた。そうしたなかで児童福祉施設や学校内での子ども間の性暴力も顕在化し、迅速な介入支援と効果的な再発予防の取組みが求められている。しかし、被害と加害の関連性に着目した研究や取組みは少なく、学校現場や児童福祉領域ではそれらの対応にも苦慮している実情がある。 青少年の治療教育で用いられるグッドライフアプローチ(Print ed., 2013、藤岡・野坂監訳, 2015)は、加害だけでなく被害児童の回復にも有効であることが示唆されていることから、本研究では、被害児童と加害児童双方に対するグッドライフアプローチにもとづく教材開発と介入を行い、効果評価を行うことを目的とする。また、学校と児童福祉施設をフィールドとし、トラウマインフォームドケアに基づく支援体制の構築を目指す。 初年度は、児童養護施設と高等支援学校の協力を得て、教職員とのネットワーキングの構築を図り、定期的な研修と事例検討を行った。このうち、児童養護施設では、施設内で起きた子ども間の性問題行動について、再発防止に向けた介入プログラム(計5回、各120分)の実施と、プログラムの事前・事後及び3ヶ月後と6ヶ月後の職員の意識調査(のべ84名)を行った。介入後の職員の意識には肯定的な変化が見られたが、継続的な対応による職員のストレスも確認された。さらに、米国保健福祉省の薬物依存・精神衛生管理庁(SAMHSA,2014)等が推奨する児童福祉領域におけるトラウマインフォームドケア/システムの指針を翻訳し、日本の児童養護施設での適用について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象機関として、学校と児童養護施設の協力を得ることができ、施設において介入プログラムの実施と評価を行うことができた。また次年度の取り組みについても研究対象機関の了承が得られている。 今年度の取り組みに関する報告書、および性暴力に関する心理教育教材は現在作成中であるため、計上していた印刷費等の予算が未消化であるが、これらは次年度に完成・公開できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象機関である学校と児童養護施設や、新たな調査協力機関との連携強化のために、引き続き継続的な事例検討と介入プログラムの効果評価を行う。また、学校や児童養護施設でグッドライフアプローチを導入するうえでの課題や留意点について検討するために、諸外国の知見を参照しながら性的問題行動や性被害に関する研究のレビューを行う。 また、初年度に実施した学校現場におけるニーズの把握に基づき、次年度はさらに、児童生徒のセクシュアリティの観点を取り入れた支援計画と検討を追加する。本研究の申請以後に、文部科学省(2015年4月)から出された性別違和のある児童生徒やセクシュアルマイノリティの児童生徒への配慮に関する通達をふまえ、性的健康や性的発達を検討課題とする本研究においても、ジェンダーやセクシュアリティについて積極的に検討していく必要性があると考えられたためである。 今後の研究の推進においては、予定されていた(1)重複トラウマ体験を有する児童福祉施設入所児童等を対象とした調査 (2)教職員への意識調査 (3)文献調査結果や症例検討からまとめた性暴力に関する心理教育用のリーフレットの作成において、ジェンダーやセクシュアリティの観点を取り入れた検討を行うこととする。また、学校での支援体制構築のために、セクシュアルマイノリティ当事者を交えての職員研修や支援計画の策定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
子どもの性的発達に関する海外での資料収集及び専門家とのヒアリングのための渡航について、国際情勢等の影響により実施が次年度に延期されたため、海外渡航にまつわる旅費等の予算が未消化となった。 また、研究成果物として、研究実践および評価に関する報告書と心理教育用リーフレット等の作成に予定よりも時間を要したため、次年度での印刷に変更したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
子どもの性的発達に関する海外での資料収集及び専門家とのヒアリングは、次年度の8月に行うことを現地専門機関と調整中である。また、今年度の調査結果について、中国で開催される国際学会で発表予定であり、それら2件の海外渡航のために使用される。 また、今年度に作成予定であった研究実践および評価に関する報告書と心理教育用リーフレット等の作成にかかる印刷費等に使用する。その他は計画通りの使用予定である。
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