研究課題/領域番号 |
15K04128
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
山崎 勝之 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (50191250)
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研究分担者 |
内田 香奈子 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (70580835)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セルフ・エスティーム / アフェクト / インプリシット特性 / エクスプリシット特性 / 学校予防教育 / 児童 |
研究実績の概要 |
昨年度において、セルフ・エスティームのインプリシットならびにエクスプリシットの測定方法の開発を終え、アフェクトのインプリシット測定方法の改良も完了した。 そこで今年度は、まず、学校において適応的なセルフ・エスティームを育成する「自己信頼心(自信)の育成」プログラムを小学校4年生に実施し、その前後でインプリシットならびにエクスプリシットのセルフ・エスティームの測定方法を適用し、その変化を調べた。また、適応面として向社会性の変化を半投影法としてビニエット法を用いて検討した。その結果、適応的なセルフ・エスティーム(自律的セルフ・エスティーム)を測定すると考えられるインプリシット測定方法による得点が教育によって有意に上昇したが、適応と不適応の側面を混在して測定すると考えられたRosenbergのエクスプリシット測定方法による得点は教育により変化はなく、教育効果の測定における両セルフ・エスティームを弁別することの重要性が明らかになった。 また、感情に関連しては、「感情の理解と対処の育成」プログラムを小学校6年生に実施し、インプリシット・アフェクトテストならびに他者の感情への対処方法の習得度合いを測定して、教育前後の変化ならびにアフェクトから対処方法への影響を階層的重回帰分析を駆使して調べた。また、学校や学級への適応状態も質問紙でとらえ、その教育前後の変化とアファクトからの影響を同様に調べた。その結果、多くの感情対処は教育により高まり、またインプリシットのアフェクトは、男子で正負アフェクトの両方の強さが適応面と正に関連し、女子ではエクスプリシット・アフェクトの強さが適応面と正に関連していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に作成を完了したセルフ・エスティームとアファクトのインプリシット尺度を予定どおり学校予防教育プログラムの効果評価として適用できた。実施したプログラムは、「いのちと友情の学校予防教育」(TOP SELF)と呼ばれる予防教育プログラム群内から基幹となる「自己信頼心(自信)の育成」と「感情の理解と対処の育成」の2つのプログラムを選択し、これらの開発した尺度で効果評価を検討できた。 この結果において、とりわけ健康・適応面に寄与すると考えられるインプリシット尺度で測定された自律的セルフ・エスティームが教育により向上し、これまでのエクスプリシット尺度としてのRosenberg質問紙では変化がなかったことを新たに見いだしたことは特記できる。これまでの教育評価は、このRosenbergのようなエクスプリシット尺度で測定されることがほとんどであったが、その向上は決して適応的、健康的な変化を意味せず、これまでの教育と測定方法のあり方に再考を迫る貴著な結果となった。 また、適応面の尺度も、自己防衛的な側面の出にくい半投影法的なビニエット法での測定方法を開発して適用し児童の対人的な適応性を直接検討できたことは、精度の高い測定尺度の開発と教育効果評価への適用という点で効果的であった。そして、結果は自律的セルフ・エスティームの高まりから推測される向社会性側面の高まりが見られ、全体的にデータの整合性も確認された。 以上、インプリシットならびにビニエット尺度の開発から、学校予防教育の実践、効果評価に至るまで研究を展開し、効果評価は新たな適応面を含めて検討でき、そして結果はこれまでにはない新たな教育方法や評価を示唆する貴重なものとなった。こうして、進捗状況はおおむね順調であったと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
セルフ・エスティームについて、インプリシットとエクスプリシットの特性が健康と適応面に影響を及ぼす状況を横断的に検討する。この場合、健康では不健康に至る前特徴としてのインプリシット・アファクト、適応面では半投影法的なビニエット法で測定する向社会性を利用する。さらに、これまでの研究から必要性が高まっている他律的(随伴性)セルフ・エスティームの質問紙測定方法を発展的に開発する。Rosenbergの質問紙は適応面と不適応面が混在しているため、どちらの効果が効いているのかが明らかにならず、ほぼ不適応面に限定される他律的セルフ・エスティームの新たな測定法は効果の出所を明らかにできる。 そして今回は、インプリシットなセルフ・エスティームとの比較のためにも1因子構造の他律的セルフ・エスティーム質問紙を作成する。他律的セルフ・エスティーム質問紙は、1因子構造と多因子構造をそれぞれ作成することが可能であり、この理由に加えて、随伴性の対象は個人により多様であるので多因子の測定の精度を上げることはむずかしく、その点全体的な他律的セルフ・エスティームはどの個人でもその傾向を精度高く測定できることも1因子質問紙作成の理由であった。さらには、学校への適応面を向社会性の観点から測定して、インプリシット・セルフ・エスティームならびにエクスプリシットとしての他律的セルフ・エスティームと適応面との関係をみたい。 こうして、次年度の最終年度においては、セルフ・エスティームとアフェクトをインプリシットとエクスプリシットから多面的にとらえ、両者と健康・適応との関係を、予防教育における効果の観点と予防教育とは関連しない状況での関連から比較しながらまとめて整理したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度も、研究補助のための謝金ならびに授業教材作成のための物品費が多く見積もられ、とりわけ最終年度ということもあり研究成果の発表を充実させるため旅費が予定より多く必要であることが見積もられている。国内(福岡や名古屋など)や国外(フランスなど)での学会発表のみならず、日本心理学会と日本教育心理学会において、この研究に関連したシンポジウムを開催予定でもある。また予防教育実施校での研究実施や打ち合わせのための訪問、他大学の研究者との打ち合わせのためにも旅費が必要のため、上記の予算を次年度に回した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究補助の謝金では、データ入力の他、予防教育授業教材の作成に従事する研究補助者に使用する予定である。また旅費においては、日本教育心理学会、日本心理学会、ヨーロッパ精神医学会等での研究発表に加えて、日本教育心理学会と日本心理学会にてそれぞれシンポジウムを主催開催する予定で、その出張に使用する予定である。その他、予防教育の学校への実施ならびに評価のための訪問、また、学校側の教員や他大学の研究者との打ち合わせ等に旅費を使用する予定である。
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