研究課題/領域番号 |
15K04129
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
葛西 真記子 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (70294733)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セクシュアル・マイノリティ / LGBT / 心理的支援 / 学校 / 台湾 / 香港 / アジア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は二つある。第一にセクシュアルマイノリティに関する学校教員の意識変容・理解促進を目指したマニュアルを作成することである。第二に日本以外のアジア諸国におけるセクシュアル・マイノリティの現状について明らかにし、連携することである。 平成28年度は、第一の目的に関して、栃木県、愛媛県、徳島県等においてセクシュアル・マイノリティへの支援に関するプログラムの実践し、その前後でアンケートを実施した。特に教員が持っている誤解について明確になるような教育プログラムを開発し、その実践を行った。平成28年度はその試作段階であるので、効果的でない部分と効果的な側面について、その説明方法の分析を引き続き行う予定である。対象は、一般教員、養護教諭、小・中・高等学校・大学の教員である。その結果をICP(国際心理学会)において発表した。文部科学省からの性的少数者への配慮ある対応を求める通達が出されて以来、学校現場は知識の獲得を必要としており、教員の意識の向上が見られた。しかし、早急に対応しようとするあまり、性的指向の悩みを抱えている生徒に病院受診を勧めたりと誤った対応を行っている事例もあることが明らかとなった。 第二の目的に関して、台湾、香港において、セクシュアル・マイノリティについて研究している者や同時者へのインタビューを行った。特に、台湾では、当事者の活動が活発であり、同性婚へ向けての運動等も活発であり、日本より発展していたが、研究、専門家の訓練に関しての研究はあまりなされていないこともあきらかとなった。香港についてはも同様で活動は活発であった。全国的な規模の研究結果もあり、当事者たちの苦痛や支援の必要な側面は類似していることがあきらかとなった。これらの結果を、ICP(国際心理学会)、APA(アメリカ心理学会)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の目的については、教員が混同・誤解している2点について、アンケートの結果を分析し、問題①の性的指向と性自認の混同には、異性愛主義の考え方があること、 つまり、「男性が男性を好きなのではなくて、女性の心を持っているから男性が好きなのだ」という誤解が教員の間にあることが、明らかとなった。5つの説明モデルを考案した。問題②の発達障がいをもつ児童生徒に特有の自分自身への違和感や、対人関係のむずかしさから、性別違和感を持っている場合と、発達障がいを伴わず、性別違和感を持つ児童生徒の心理的違いを明らかにし、学会で発表した。 第二の目的については、各アジア諸国(台湾と香港)のLGBTQ 研究に関する専門家へのインタビューを行い、事例等について文化的意味・影響について分析開始した。その内容については、International Congress of Psychology(2016)にて発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
第一の目的については、平成27・28 年の調査結果をもとに、教員への説明モデルを構築し、その実践を中学校・高等学校を中心に行う。日高(2013)の調査では、教員が授業でLGBT を取り上げなかった理由が「教える必要性を感じなかった」「同性愛・性同一性障害についてよく知らない」が7 割以上であったことから、学校の教員がLGBT について教えないことによる悪影響について、「セクシュアリティによるいじめの現状」「いじめの深刻化、複数学年継続していること」「誰にも相談できないことによる心理的影響」「自殺企図・未遂率の高さ」など(いのちリスペクト,2013)の結果も取り入れたマニュアルを作成する。次に、同性愛・性同一性障害の知識を獲得してもらうために、性の4 側面からの説明モデル・グラデーションモデル等を使用し、より理解が得られるものをマニュアルに取り入れる。教員への実際的な説明を実践し、その効果を検証しながら、効果のあるものをマニュアルの内容として決定していく。 第二の目的については、中華人民共和国などの他の国々へその調査対象を拡大する。それぞれの国の文化的背景・歴史的背景・宗教的教えなどもLGBTQ に影響を与えているので、これまで調査した韓国・台湾・日本との比較を行い、平成27 年度のアメリカ心理学会、平成28 年度の国際心理学会の内容も合わせて、研究論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の二つ目の目標であったアジア諸国でのセクシュアル・マイノリティの方々の実態についての調査が、インターネットを介したもの(メールやSkype)となり、その旅費を使用しなかったため。また、日本国内の当事者の方々へのインタビューを各地でおこなったが、人数が予定よりもすくなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、アジア諸国の他の国の方々へインタビューを行うことと、アメリカとヨーロッパへの当事者の方々への支援の実情について調査研究する予定であり、旅費として使用予定である。
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