研究課題
本研究は,不表出性攻撃,すなわちネガティブ感情を感じていながら,それを表出せずに敵意やシニシズムを生むことと,抑うつとの関連を明らかにすることが目的である。初年度は、ロシアと日本の二国間の国際比較研究を実施した。場面想定法による質問紙を実施し、怒りと感情調節(抑制、再評価、気晴らし)が抑うつに与える影響について、日本人とロシア人大学生のデータを比較、分析した。その結果、怒りを制御することで適応を高めるとされる感情調節が、一定の条件下では抑うつという新たな不適応を引き起こすこと,また,怒りを感じる場面で主に用いられる感情調節の種類や、その怒りの制御がもたらす影響についても、文化による違いがあることが明らかとなった。次年度は,怒りの感情調節と抑うつとの関係を,攻撃性が高いと考えられる刑事施設で服役中の受刑者を対象に検証した。その結果,大学生の場合と同様に,敵意と怒りが抑うつを促進する一方で,大学生の場合と異なり,感情調節の抑制が抑うつを抑制するとともに,再評価は抑うつを促進することが明らかとなった。ここから,刑務所という特殊な環境下や,認知の歪みが大きい対象者においては,感情調節が通常とは異なる働き方をする可能性が示唆された。最終年度は,大学生を対象に,日誌法を用い,実際の生活の中で感じた怒りが抑うつに及ぼす影響を検討した。その結果,抑うつが高い群は低い群に比べて,質問紙では怒りや敵意が高いが,日常生活の出来事についてはそうではないこと,両群において,感情調節に有意な差が見られないこと,予想に反して,抑うつが高い群の方が怒りの反芻が低い傾向が見られた。このことは,抑うつ高群は自己の怒りや敵意を意識することに問題を抱えている可能性や,現実の生活では自己の感情を強く抑制してしまう可能性があることが示唆された。
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