研究実績の概要 |
最終年度は、WSを持つ幼児とその母親5組(平均年齢5.24歳、男児5名、女児2名)、そして統制群として、健常児の母子10組(平均年齢5.17歳、男児8名、女児3名)の母子相互的な情動応答の場面において、Bringen et al.,(2008)が開発したEmotionalAvailabilityScales4th(EAS)を用いて評価した。EASは、母子観察を通して母子間の実証的な情動的な応答性を評価する尺度で、母親の「敏感性」、「構造化」、「非侵襲性」、「非攻撃性」、子どもの「応答性」、「関与の促し」の6下位項目からなる。各項目29点満点で、得点が高いほどEAは高くなり、母子間はより健康的な情動応答性を示していることになる。WSの母子5組のEASの平均は、それぞれ24.4、24.2、22.0、26.2、24.6、24.2であり、健常の母子のEASは、それぞれ25.6、25.6、25.7、27.9、26.4、26.1となり、すべての項目で、健常児の母子間、WS児の母子間を上回る結果となった。とりわけ差が大きかったのは、「非侵襲性」で3.7であり、その他、「非攻撃性」、「子どもの応答」、「子どもからの関与」に関してもそれぞれ1.71、1.80、1.90という差となった。これらの結果は、WS児の母親は、母子のかかわりの場面で侵襲的になりやすいことや、攻撃性、子からの応答や関与において、健常児と比較して低いことを示している。母子はその関わり合いの中で相互的に情動を表現し合い、相手に充分かつ適切に反応しているときにEAは高くなり、持続的な快感覚を共有することができる。今後は、これらの実証的なデータを臨床場面に応用し、WS児の母子間の健康的な感情交流が促進されるような母親への心理的支援を行っていくことが望まれる。
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