研究課題/領域番号 |
15K04166
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
富樫 公一 甲南大学, 文学部, 教授 (90441568)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トラウマ / 精神分析 / 倫理的転回 |
研究実績の概要 |
【具体的内容】 研究者らがすでに行っていた「世界貿易センター爆破事件」の米国人サバイバー9名のインタビューデータをもとに、サバイバーの不条理体験の質と、それを人生の中に組み込むプロセスについての仮説を生成し、平成27年10月にロサンゼルスで行われたの国際自己心理学会で口頭発表を行った。学会発表後には、ニューヨークで研究協力者へ結果のフィードバックも行った。不条理体験に関する精神分析の研究は、近年の「倫理的転回」の流れにも位置づけられる。本研究を側面から支える概念として、そうした研究のレビューも行い、10月に日本精神分析学会の教育研修セミナーで発表している。トラウマの不条理性については12月に台湾で発表もしている。 【意義】 今回の研究結果では、協力に応じてくれたサバイバーの方々は、体験に対する「否認」と「信じること」の間を揺れており、彼らは、自分がまきこまれたことは道理に合わないと思っていながら、責任感や使命感を持つことによって、人生の意義を見出していることがわかった。これはこれまでの研究とは違い、サバイバーは受身的な被害者や「病者」ではなく、世の中に関与することで体験を自分のものにしようとする積極的な存在であることを明らかにしたものである。また、従来の精神分析臨床では、「抵抗」「エナクトメント」とされやすいそうしたサバイバーの社会参画を、安易に分析の対象とすることの危険性も示された。 【重要性】 今回の研究は、世の中の不条理性や不確実性は、人の生きる様子そのものであることを示しており、これまでの精神分析におけるトラウマ研究とは異なる視点を示すものとして重要である。また、精神分析が扱うものは、個人の中の病理的側面やパターンだけでなく、世の中の予測不可能性や操作不可能性も含まれ、さらに、臨床家本人もそのような体験に曝された存在であることを認める必要性を説くという点で、重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年1月~3月にかけて、阪神・淡路大震災のサバイバーから任意の研究協力者10-15名を募る予定であったが、平成27年11月~12月にかけて福島県で行った東日本大震災の体験やその支援に携わる研究者への予備調査から、震災体験の質の違いが予想より大きいことがわかったため、阪神・淡路大震災においても、その体験内容について事前調査が必要と思われた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)現在行っている阪神・淡路大震災のサバイバーの体験の分類を5月末を目途に終了させ、6月以降に研究協力者を募り、8月以降に協力者にインタビューを行っていく (2)阪神・淡路大震災の調査後に行う予定だった東日本大震災のサバイバーの体験の質の違いが極めて大きいことがわかったので、平成28年5月以降、東日本大震災の予備調査及び研究協力者の体験の分類についての準備を前倒しして行う。阪神・淡路大震災の調査と同時並行的に行うことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度内にすでに使用している学会参加費(410ドル)、物品費(論文集40ドル)、物品費(録音素材225ドル)<日本円で合計84678円>について、処理の遅れから、今年度の支払いに反映されなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度内に執行した学会参加費(410ドル)、物品費(論文集40ドル)、物品費(録音素材225ドル)<日本円で合計84678円>に使用する(執行済み)
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