本研究は、精神力動的な視点から人がトラウマの不条理さを乗り越えるプロセスを明らかにするため、トラウマ体験を持つ人(サバイバー)の主観的体験における不条理体験の質と、彼らがそれを人生の中に組み込むプロセスについての仮説を生成することを目的としたものである。具体的には、研究目的ごとに、以下の3つの段階で研究を進めることを計画した。 【研究1】「世界貿易センター爆破事件」のサバイバーに関する研究発表を国際学会等で行い、米国人の不条理体験の質と、それを人生の中に組み込むプロセスの仮説を検証する。【研究2】「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」のサバイバーで、任意の研究協力者に個別に半構造化面接によるインタビューを行い、精神分析的解釈学による質的内容分析を通して、不条理体験の質とそれを人生の中に組み込むプロセスの仮説を生成する。【研究3】国内外でワークショップ等の機会を得て研究1と2の結果を発表することを通して、日米の不条理体験とそれを人生に組み込むプロセスについての異同を検証し、それを明らかにする。 研究計画最終年度となった2019年度は、研究3について、これまでの研究成果をPsychology & the Other学会(ボストン)と国際自己心理学会(バンクーバー)で10月に発表を行った。この発表内容は海外共同研究者とともに企画編集することになった学術雑誌「Psychoanalytic Inquiry」 の特集号の中の一つの論文として掲載されることになった。また、研究1についての2015年の発表論文と、研究2で得られた知見を組み込んでまとめた論文を収録した報告者の編著書籍を岩崎学術出版社から出版した。
|