研究課題/領域番号 |
15K04172
|
研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
中嶋 みどり 広島国際大学, 心理学部, 講師 (10412339)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 原爆被害者 / 人生の支え |
研究実績の概要 |
平成27年度は,「被爆者の心理的状態に関する文献展望」を行った。被爆者の多様な手記、新聞記事等にみられる被爆当時からその後の体験の心理状態に限定したものは多数あるが、高齢者となり長い人生体験を振り返る中でどのような生活を送ってきたのか、何らかの分岐点や意味の捉えなおしがあったか検討されたものは、非常に少なかった。 (1)被爆者の戦争体験、被爆時の惨状・体験、(2)被爆者・非体験者の戦後の苦境体験については,多くの文献のとおり被爆者が黒い雨や放射能の影響に関する実相や科学的知識を得たり,大病の罹患を契機に被爆体験を振り返り,不安に感じたり,被爆と関連づけをした捉え方をしているものが多数あった。退職後,人生を捉えなおしをしたり,社会貢献活動の中で被爆体験に戻される中で被爆体験を言い残すことに意味があるとした人もいれば,生々しい体験であるが故,蓋をしてふれたくないと思った人も少数いた。(3)人生の支えや大切にしてきたことについて,被爆者・非体験者とも保護者の言い残した言葉,誠実に生きる等の生活信条,苦境の中で感じた不条理さやそこから学んだこと,生きていて街や生活が充実していく過程を見れたことに影響された人も多数いた。しかし,その内容は被爆者は被爆体験が色濃く残っていたが十分に整理・検討されていない。 今後は,広島の被爆者の被爆体験やその後の生活が述べられた文献を軸に被爆後の生活の変化、結婚や就職、子どもをもつ・持たない、病気の罹患、退職などのライフイベントに注目しながら,長い人生において心の傷と苦境への向き合い方、考え方の変化や支えを概観したい。さらに,2008 年度・2009年度に広島市によって行われた原子爆弾被爆実態調査(第二次)の質問紙調査の約6000枚の自由記述をさらに読み直し分析する準備を進め、記述内容を検討に進めていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、「被爆者の心理的状態に関する文献展望」であり、被爆者の多様な手記、新聞記事等にみられる被爆当時からその後の体験の心理状態に限定して行ったが、被爆後の生活においての苦境、就職や結婚などの傷つきなど短いライフスパンにおいては非常に多く見られるが、老年期を迎えた被爆者がどのような人生を送ってきたか、どのような点(ライフイベント、危機、心の支え)が分岐点になっていたかまで心理学的な検討がなされたものは少なく,その先の人生に及ぼしている影響が検討された文献はさらに非常に少ないことが確認された。このような甚大な天災・人災を体験した人がどのようなことを考え,人生を送るものかを検討する必要があると考えられる。 よって、今後は広島の被爆者の体験を対象とした文献を軸に長い人生にわたる心の傷と苦境への向き合い方、支え、次世代のメッセージを概観したい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、前年度同様、被爆者の長い人生にわたる被爆後の生活の語りに関する文献展望を続ける。その際、被爆後の生活の変化、結婚や就職、子どもをもつ・持たない、病気の罹患、退職などのライフイベントに注目する。また、上記の視点から、2008 年に行われた原子爆弾被爆実態調査(第二次)の質問紙調査の約6000枚の自由記述をさらに読み直して、被爆者と非体験者の記述内容を検討し直したい。具体的には(1)戦争体験、被爆時の惨状・体験、(2)被爆者・非体験者の戦後の苦境体験の内容、それとどのように向き合い、乗り越えたか、(3)人生の支えや大切にしてきたこと(5)次世代に伝えたいこと、(6)その他大切と思われる視点を抽出し、被爆者と非体験者の心の傷と苦境への向き合い方、支え等を抽出し、その類似点や相違点を比較・検討を行いたい。しかし、約6000枚の文書の文字入力にも時間がかかるので、多少の遅れも想定されるが、計画的に行っていきたい。
|