研究課題/領域番号 |
15K04180
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山田 一夫 筑波大学, 人間系, 准教授 (30282312)
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研究分担者 |
一谷 幸男 筑波大学, 人間系, 教授 (80176289)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ラット / ニオイ / 母子分離 / 恐怖条件づけ / 性差 |
研究実績の概要 |
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者において,トラウマ体験時のニオイがトラウマ記憶の想起を促進することが報告されているように,ニオイは嫌悪性情動記憶の強力な喚起刺激となりうる。本研究では,2つのPTSD動物モデル,恐怖条件づけと母子分離を用いて,ニオイ刺激がトラウマ記憶の形成やその消去過程に及ぼす影響について明らかにすることを目的とする。28年度は,母子分離法を用いて,新生仔期のトラウマ体験と連合したニオイが成体期の情動行動に及ぼす影響を検討することを目的とした。被験体としてWistar-Imamichi系雌雄ラットを用いた。まず実験1では,生後1日目から14日目までの14日間に毎日3時間,母ラットと仔ラットを分離し,母仔分離時にニオイ(2-phenylethanol)を提示した。成体期において,新生仔期母仔分離時に提示したニオイに対する接近行動と,そのニオイ提示下での条件性恐怖反応を測定した。その結果,雄では,新生仔期母仔分離時のニオイに対する一時的な探索行動の増加がみられた。実験2では,実験1での結果をふまえて,母ラットのニオイ体験の統制や文脈恐怖条件づけで用いるフットショック強度を強める等の手続きの一部を変更して,さらに検討を行った。特に文脈恐怖条件づけについては,新生仔期母仔分離に提示したニオイ提示下とニオイ非提示下での条件性恐怖反応を比較した。その結果,雌では,新生仔期母子分離時と恐怖条件づけ時の両方でニオイを提示された群の条件性恐怖反応は,他の群よりも高かった。以上の結果から,新生仔期母仔分離時に経験したニオイは,成体期での恐怖反応を増強すること,そしてその効果には性差があることが示唆された。本研究の結果は,トラウマ記憶とニオイの連合メカニズムの解明や,幼少期の虐待による精神疾患への心理的介入や新たな治療法の開発に非常に有益であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載した通り,28年度においては当初計画通り,母子分離中に提示したニオイ刺激が,成体期での情動行動にどのような影響を及ぼすのかを検討することができた。その結果,母子分離中に経験したニオイ刺激に対する反応に性差があり,雄はそのニオイにより接近するのに対して,雌では嫌悪を示すいう新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の研究結果から,母子分離中に経験したニオイに対する反応性に性差が見られることが明らかとなった。そこで29年度においては,その性差を生み出す要因を明らかにすることを目的とする。その一つの候補として,母子分離後に母親から受ける養育行動に性差がみられる可能性がある。母子分離のような状況は,母親にとっては一種の育児危機といえ,そのような状況では雌よりも雄の仔に対してより多くの養育行動を示すのかもしれない。そしてそのような養育行動の質的・量的な違いが,生育後のニオイ刺激に対する反応の性差を作り出している可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた実験機器が,交付金額が予定よりも少なかったため購入できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
主に行動実験の実施のためのラットの購入,ラットの飼育に必要な餌・床敷きの購入に使用する予定である。また本研究の最終年度であるので,研究成果発表のための旅費としても使用する。
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